2007.07.17
創作・裕樹編 -It started with a kiss 19−
2日後、僕は好美の家の前にいた。
もちろん朝9時に病院から家まで送ったのも僕だ。
「無茶しないように!」と、好美にではなくなぜか僕に念を押して病院から送り出してくれた主治医のお兄ちゃん。
この夏、日本中の20歳男性のなかで僕ほど無茶をしていないヤツはいないと思うんだけど(笑)。
本当は病院からそのまま20歳の思い出作りに直行したかったけど、「どうしても1回家に帰りたい」という好美の希望を聞き入れたってわけだ。
好美を家に送り届けて、僕はそのまま一旦用事をすませてから再びこの家を訪れた。もう午後1時を回っていた。
*続きを読む*
もちろん朝9時に病院から家まで送ったのも僕だ。
「無茶しないように!」と、好美にではなくなぜか僕に念を押して病院から送り出してくれた主治医のお兄ちゃん。
この夏、日本中の20歳男性のなかで僕ほど無茶をしていないヤツはいないと思うんだけど(笑)。
本当は病院からそのまま20歳の思い出作りに直行したかったけど、「どうしても1回家に帰りたい」という好美の希望を聞き入れたってわけだ。
好美を家に送り届けて、僕はそのまま一旦用事をすませてから再びこの家を訪れた。もう午後1時を回っていた。
僕がインターフォンを押すと好美の弟が出てきた。
「裕樹兄ちゃん、暑いから中どーぞ!姉ちゃんすぐ来るって」
そう、僕は好美の弟・翔太(勝手に命名)から『裕樹兄ちゃん』と呼ばれている。
弟気質で育ってきた僕のことを『兄ちゃん』扱いしてくれるカワイイヤツだ。
この夏休み期間は病院で時々今年大学進学を控えている翔太の英語の勉強も見てやった。
斗南高校在学中の翔太が目指しているのは、やっぱりエスカレータで斗南大だ。まっ、こいつはC組だし、好美や琴子と違ってよっぽどのことが起こらない限り心配はないだろう(笑)。
涼しいリビングに通されてソファーに腰掛けると
「裕樹君わざわざ悪いわねぇ〜」
そう言いながら好美のお母さんがアイスコーヒーとクッキーを持ってやってきた。昔お兄ちゃんと琴子がバイトしていたファミレスのクッキーだ。おばさんはもう僕の好みも熟知していた。
「せっかくの外泊日に僕んちに泊めるだなんておじさん怒ってませんか?」
僕は恐る恐るおばさんにきいてみた。
あの日勢いに任せておばさんに外泊許可を取ったものの、おじさんにはまだ直接一言も言ってなかったから・・・。
身近にいたイリちゃんおじさんは、元々同居していたこともあって琴子とお兄ちゃんの両親公認同棲には娘を持つ父親としてなんら反対しなかった。それどころか喜んでいて位だ。まっ、それもほんの3週間弱で正々堂々と夫婦という関係になってしまったんだけど。
でも、娘を持つお兄ちゃんをみてるとどうも寄ってくる男がしゃくに触るようだ。それが1〜2歳の子供であろうが、叔父である僕であろうが。
現に葵が僕と結婚したいと言った時はあきらかに不機嫌になった。金之助の息子、2歳の銀之助が葵にkissしようとするのだってさりげなく阻止してるのを目撃したことあるし。
以前は平気で好美と旅行に出かけたことだってあるのに、(男親とはそういうものかのか?)とやっと悟った僕は、好美のお父さんのことが少し気になっていたんだ。
「ああ、お父さんは好美のお願いに弱いから(笑)。もう裕樹君とは長いつきあいだし、あんなに献身的にお見舞いに来てくれたこともちゃんと知ってるし、全然大丈夫よ。それにお昼休みに病院に会いに行ったとき、入江先生が『うちには担当医も担当ナースもついてますから』って言いに来てくれたそうよ」
少し好美に似てる朗らかな笑顔でそう言ってくれた。父親って娘に弱いんだな、そしてお兄ちゃんまで後押ししてくれたのがなんだかおかしくて思わず口と頬の筋肉が緩んでると
「裕樹兄ちゃん、もうすぐアメリカに行っちゃうんだろ?」
と翔太が聞いてきた。
「うん、明明後日出発。だから翔太がお姉ちゃんの力になってくれよな」
「わかったよ。裕樹兄ちゃんも頑張ってきてね」
「ああ」
僕はお兄ちゃんが神戸の病院にいく前の晩に、僕の肩に両手を置きながら言った言葉を思い出していた。
「まだ中学校卒業したばっかりのおまえに言うのは心苦しいけど・・・裕樹、大変だろうけどオヤジやおふくろと・・・琴子のこと頼むな」
「うん。僕頑張るよ。お兄ちゃんも頑張って沢山の人の病気を治してあげてね」
あれからもう何年経っただろう。今では僕がこんなことを言う立場になるだなんて。
巡り合わせって面白いなと思いつつ翔太に話しかけた。
「大学合格したら遊びに来いよ。案内してやるから。」
「えっ?1人で行ってもいいの?。姉ちゃん一緒じゃなくても行っていい?」
「いーよ(笑)。」
「ホント?。じゃ、約束!」
今時の高校生にしては純粋な翔太は僕に指切りをせがんでくる。甘え方がちょっと好美に似てる。そこがまたかわいかったりする(笑)。
もちろん僕は快く指切りに応じた。
と、階段を下りる不規則なスリッパの音が聞こえた。
僕はすかさずソファーから立ち上がって廊下に出た。
「裕樹君、待たせてごめんね!」
好美が松葉杖をつきながら慎重に階段を下りてきていた。
「手かそうか?」
階段の下から声をかけた。
「ううん、大丈夫だからそこで待ってて」
そう言うとまたゆっくり下り始め、ようやく僕の所に到着すると「すごいでしょ」と達成感に満ちた顔でピースマークをかざした。
久しぶりにナチュラルメークしてる好美を見て胸がドキッっとした。すっぴんもいいけど、化粧するとやっぱり女の子は色っぽくなる。
服装もいつも病院でみてるTシャツにハーフパンツではなく涼しげな膝丈ワンピースだし。極めつけはいい匂いまでするじゃないかぁーっ!。
「どうかした?」
「別にどうもしないよ。もう行く?」
僕は動揺がバレないように話を変えて向きも変えた。
お兄ちゃん所有のエスティマは後部座席が足が伸ばせる仕様になっているので今の好美にはもってこいの車だった。今日1日は僕が好きに使っても良いってことになっている。
僕は好美を後部座席に乗せてエンジンをかけた。
目的地は僕の家だ。ここから車で15分かからない。
後部座席からの視線を感じた僕は視線だけあげてルームミラーを見た。
身を乗り出し気味に僕のことを見てる好美がそこに映っていた。
「何?」
「えっ?。あ、ああ、運転する裕樹君、格好いいなぁ〜って見とれちゃった。」
相変わらずストレートに僕を幸せな気分にさせてくれるヤツだ。僕は今日の好美の姿を見ても息をのむしかできなかったっていうのに。
なら、もう少し運転してる僕を堪能させてあげようか(笑)。
「せっかくだからちょっとドライブする?。足が大丈夫ならだけど」
ルームミラー越しに好美に話しかけた。
「ドライブするっ!。久しぶりのデートだもん!」
更に身を乗り出してきた好美を左後ろに感じて、僕は手を伸ばして頭を撫でた。まっすぐ行けば僕の家、でも左折ウィンカーを出した。
家から一番近い海、横浜まで車を走らすことにした。片道30分強、そんなに好美の負担にならないだろうと思ったから。
To be continued...
「裕樹兄ちゃん、暑いから中どーぞ!姉ちゃんすぐ来るって」
そう、僕は好美の弟・翔太(勝手に命名)から『裕樹兄ちゃん』と呼ばれている。
弟気質で育ってきた僕のことを『兄ちゃん』扱いしてくれるカワイイヤツだ。
この夏休み期間は病院で時々今年大学進学を控えている翔太の英語の勉強も見てやった。
斗南高校在学中の翔太が目指しているのは、やっぱりエスカレータで斗南大だ。まっ、こいつはC組だし、好美や琴子と違ってよっぽどのことが起こらない限り心配はないだろう(笑)。
涼しいリビングに通されてソファーに腰掛けると
「裕樹君わざわざ悪いわねぇ〜」
そう言いながら好美のお母さんがアイスコーヒーとクッキーを持ってやってきた。昔お兄ちゃんと琴子がバイトしていたファミレスのクッキーだ。おばさんはもう僕の好みも熟知していた。
「せっかくの外泊日に僕んちに泊めるだなんておじさん怒ってませんか?」
僕は恐る恐るおばさんにきいてみた。
あの日勢いに任せておばさんに外泊許可を取ったものの、おじさんにはまだ直接一言も言ってなかったから・・・。
身近にいたイリちゃんおじさんは、元々同居していたこともあって琴子とお兄ちゃんの両親公認同棲には娘を持つ父親としてなんら反対しなかった。それどころか喜んでいて位だ。まっ、それもほんの3週間弱で正々堂々と夫婦という関係になってしまったんだけど。
でも、娘を持つお兄ちゃんをみてるとどうも寄ってくる男がしゃくに触るようだ。それが1〜2歳の子供であろうが、叔父である僕であろうが。
現に葵が僕と結婚したいと言った時はあきらかに不機嫌になった。金之助の息子、2歳の銀之助が葵にkissしようとするのだってさりげなく阻止してるのを目撃したことあるし。
以前は平気で好美と旅行に出かけたことだってあるのに、(男親とはそういうものかのか?)とやっと悟った僕は、好美のお父さんのことが少し気になっていたんだ。
「ああ、お父さんは好美のお願いに弱いから(笑)。もう裕樹君とは長いつきあいだし、あんなに献身的にお見舞いに来てくれたこともちゃんと知ってるし、全然大丈夫よ。それにお昼休みに病院に会いに行ったとき、入江先生が『うちには担当医も担当ナースもついてますから』って言いに来てくれたそうよ」
少し好美に似てる朗らかな笑顔でそう言ってくれた。父親って娘に弱いんだな、そしてお兄ちゃんまで後押ししてくれたのがなんだかおかしくて思わず口と頬の筋肉が緩んでると
「裕樹兄ちゃん、もうすぐアメリカに行っちゃうんだろ?」
と翔太が聞いてきた。
「うん、明明後日出発。だから翔太がお姉ちゃんの力になってくれよな」
「わかったよ。裕樹兄ちゃんも頑張ってきてね」
「ああ」
僕はお兄ちゃんが神戸の病院にいく前の晩に、僕の肩に両手を置きながら言った言葉を思い出していた。
「まだ中学校卒業したばっかりのおまえに言うのは心苦しいけど・・・裕樹、大変だろうけどオヤジやおふくろと・・・琴子のこと頼むな」
「うん。僕頑張るよ。お兄ちゃんも頑張って沢山の人の病気を治してあげてね」
あれからもう何年経っただろう。今では僕がこんなことを言う立場になるだなんて。
巡り合わせって面白いなと思いつつ翔太に話しかけた。
「大学合格したら遊びに来いよ。案内してやるから。」
「えっ?1人で行ってもいいの?。姉ちゃん一緒じゃなくても行っていい?」
「いーよ(笑)。」
「ホント?。じゃ、約束!」
今時の高校生にしては純粋な翔太は僕に指切りをせがんでくる。甘え方がちょっと好美に似てる。そこがまたかわいかったりする(笑)。
もちろん僕は快く指切りに応じた。
と、階段を下りる不規則なスリッパの音が聞こえた。
僕はすかさずソファーから立ち上がって廊下に出た。
「裕樹君、待たせてごめんね!」
好美が松葉杖をつきながら慎重に階段を下りてきていた。
「手かそうか?」
階段の下から声をかけた。
「ううん、大丈夫だからそこで待ってて」
そう言うとまたゆっくり下り始め、ようやく僕の所に到着すると「すごいでしょ」と達成感に満ちた顔でピースマークをかざした。
久しぶりにナチュラルメークしてる好美を見て胸がドキッっとした。すっぴんもいいけど、化粧するとやっぱり女の子は色っぽくなる。
服装もいつも病院でみてるTシャツにハーフパンツではなく涼しげな膝丈ワンピースだし。極めつけはいい匂いまでするじゃないかぁーっ!。
「どうかした?」
「別にどうもしないよ。もう行く?」
僕は動揺がバレないように話を変えて向きも変えた。
お兄ちゃん所有のエスティマは後部座席が足が伸ばせる仕様になっているので今の好美にはもってこいの車だった。今日1日は僕が好きに使っても良いってことになっている。
僕は好美を後部座席に乗せてエンジンをかけた。
目的地は僕の家だ。ここから車で15分かからない。
後部座席からの視線を感じた僕は視線だけあげてルームミラーを見た。
身を乗り出し気味に僕のことを見てる好美がそこに映っていた。
「何?」
「えっ?。あ、ああ、運転する裕樹君、格好いいなぁ〜って見とれちゃった。」
相変わらずストレートに僕を幸せな気分にさせてくれるヤツだ。僕は今日の好美の姿を見ても息をのむしかできなかったっていうのに。
なら、もう少し運転してる僕を堪能させてあげようか(笑)。
「せっかくだからちょっとドライブする?。足が大丈夫ならだけど」
ルームミラー越しに好美に話しかけた。
「ドライブするっ!。久しぶりのデートだもん!」
更に身を乗り出してきた好美を左後ろに感じて、僕は手を伸ばして頭を撫でた。まっすぐ行けば僕の家、でも左折ウィンカーを出した。
家から一番近い海、横浜まで車を走らすことにした。片道30分強、そんなに好美の負担にならないだろうと思ったから。
To be continued...
2007.07.01
創作・裕樹編 -It started with a kiss 18−
最近本当に日が短くなってきたことに気づかされる。
9月の新学期を前に、一足先に僕は再び留学生活に戻る。
毎日病院に通っている間に僕の夏休みは終わりを告げようとしていた。
*続きを読む*
9月の新学期を前に、一足先に僕は再び留学生活に戻る。
毎日病院に通っている間に僕の夏休みは終わりを告げようとしていた。
僕はいつもより早めに家を出て、好美のリハビリの様子を本人に気づかれないようそっと見ていた。
昨日の夜、帰宅した琴子がこう言ったから。
「裕樹君がもうすぐ行っちゃうからかなぁ?。最近好美ちゃんの元気がないの。病院じゃ言えなかったけど、食事も残すし今朝なんて目が腫れてたんだよ!」
「えっ?」
「聞くと、何でもないって答えるんだけどね」
僕には全然心当たりがなかった。だって、今日会った好美はいつもと変わらない態度だったから。
僕はチビをなでる手を止めてソファーに深く腰をかけ直した。
「あなたまだ2年も向こうに行ってなきゃいけないんでしょ。いっそのこと好美ちゃんに休学してもらって一緒に連れて行くっていうのはどうかしら?」
相変わらず恋愛至上主義の入江紀子だ。
「かあさん!僕勉強しにいってるんだゾ。」
そう言ったモノの、確かに僕が向こうに戻る日までもう1週間を切っていた。
気になった僕は好美に内緒で様子をうかがうことにしたんだ。
鴨狩さんと一緒に歩行訓練している好美の顔に笑顔はなかった。ただ淡々とメニューをこなしているという感じだ。
誰に対しても愛想のいい好美にしては表情が硬い気がした。
まぁ、鴨狩さんに向かってニコニコしてる姿見たらきっとムカツクだけなんだけど。
なんせ鴨狩さんはあのお兄ちゃんに初めて『嫉妬』という現象を自覚させた男だから。
男の僕から見ても、キリリとしてるし人当たりもいいし僕達兄弟に不足している熱血感を持っているし・・・正直いい男だとは思う。
なんて余計なことを考えていたら、さっきまでリハビリしていた好美が目の前にいた。
松葉杖ついてうつむいて歩いていたから、僕の胸の辺りに頭からぶつかってきたんだ。
「ごめんなさい、あっ、裕樹君!」
顔を上げた好美は僕の顔を見てうれしそうに笑った。
「よおっ。たまにはお前の頑張り見てみようかと思ってきてみたんだけど、リハビリもう終わったの?。」
「うん、終わったとこ。あっ、そうだ!。お昼ご飯まだでしょ?。今日は天気がいいから売店でおにぎりとお茶買って中庭でお昼食べようよ。もう病院食飽きちゃった!」
そう言って僕の腕を両手で掴んで甘えるようにニッコリ笑っている好美と僕に、丁度リハビリ室から出てきた鴨狩さんが声をかけた。
「どーして入江兄弟はこんなに相手に愛されるんだろーなぁ?。今日初の好美ちゃんの笑顔見たよ。入江兄弟に愛されてる女子は本人達と一緒にいる時本当に幸せそうな顔するんだよなぁ〜。」
確かにお兄ちゃんにまとわりついてる時の琴子はいつも飛びきりうれしそうだし、好美だって現にこうだし・・・。その逆もまたしかりで僕達も好美や琴子の前だけみせる顔があるはずなんだけど。
「彼女たちだけにわかる魅力があるんでしょ」
僕は好美の頭を撫でながらそう言った。
「そーなんだろうなっ。といっても入江兄弟は他の女性にも人気なんだけど・・・本人達は我感せずってところがスゴイよなぁ」
「そう、すごいんです」
僕の代わりに好美が返事をした。
「弟チームは現代っ子らしくオープンなんだな(笑)。好美ちゃん、明日は僕にも少し笑顔見せてくれよなっ!」
そう言って、鴨狩さんは僕の肩を軽く2回叩いて行ってしまった。
「お腹すいた〜、行こう裕樹君!」
僕達も売店へと急いだ。
「好美、暑くない?」
日陰にいるものの8月の太陽はやっぱり強烈だ。ただ座っているだけでも汗がにじんでくる。
「暑いけどここにいたいの。今年の夏は、空より天上見てる時間の方が長かったから」
そう言って好美は青い空を仰いだ。
僕は空を見上げてる好美を自分の方に引き寄せて頭を肩にもたれかけさせた。
「裕樹君、私とひっついてると暑いでしょ?」
そう言って離れようとする好美を、僕はもう一度引き寄せた。
「暑いけどこうしてたいんだ。今年の夏はあんまりこうしてられなかったから」
もう好美が離れようとすることはなかった。
どのくらい時間が経っただろう?。僕達は特に何か話すわけでもなく、ただ一緒に座っていた。
時折吹く秋の気配を感じさせる気温よりも涼しい風が心地よかった。
「好美、今おまえが何考えてるかあててみようか?」
突然口を開いた僕の顔を驚いたような表情で見ている好美に僕は話し続けた。
「せっかく1年ぶりに帰ってきたのに、毎日病院に通わしちゃうし、ぜんぜん楽しい思い出も作れないまんま裕樹君はもう帰っちゃうんだ・・・って今の現状嘆いてるんだろ」
「えっ?。ど、どうして・・・」
「何年お前の彼氏やってると思ってるんだよ。そのくらいのことわかるよ」
僕は面白いくらいに動揺している好美の鼻をつまんだ。
「そーだな。20歳の夏の思い出作ろうか?」
「ほんと?これから?」
好美の瞳がキラキラ輝きだした。
「ほんと。よし、好美にも係りを分担してやるよ。おまえはてるてる坊主つくって決行日が晴れになるよう祈る係りだ」
「それが係り?」
「かなり責任重大だぞ!。っとその前に担当医にいろいろ許可とらないとな。ほら行くゾ、乗れよ」
僕はしゃがんで背中を好美に向けた。
「えっ、だって、その〜、重いよ。私」
戸惑ってる好美の腕をとって、有無を言わせず背中に乗せた。心地良い温もりと重さが僕の背中から伝わってきた。
「病院食本当はうまいんだろ(笑)。鴨狩さんに言ってリハビリメニュー増やしてもらえよっ」
「だから重いって言ったでしょっ!!。降ろしてっ!!」と好美は必死で降りようと抵抗したけど、僕はおかまいなしに歩き続けた。
「ったくあんたたち2人はほんとにいろいろ見せつけてくれるわねぇ〜。病院の気温がますます上がるじゃないのっ!」
病院の廊下を好美を背負って歩いてると桔梗が声をかけてきた。
「あっ、そうだ。桔梗さん、お兄ちゃんは?」
「入江先生ならさっき食堂で琴子につかまってたわよ。あっ、それから好美ちゃんのお母さんがいらしてて病室で待ってるわよ。」
「よしっ、これで一気に話を進められるな。さんきゅー、桔梗さんっ」
「あら、今日はやけに素直じゃない」
僕は好美を病室に届けて、そして好美のお母さんに挨拶してから食堂へと急いだ。
「どーしたの?息切らして。好美ちゃんに何かあった?」
昼食を食べてるお兄ちゃんの横に陣取って、何か一生懸命話しかけてた琴子が僕に気づいて顔を上げた。
「ねぇ、入江先生。そろそろ好美の外泊ってOKにならないの?」
そう言いながら僕は2人の前の席に座った。
「外泊?。そーだな。実は好美ちゃんからお前が帰る日の外出許可をくれって申請があってそれは許可したんだけど」
そう言うと、病院ではいつもcoolなお兄ちゃんがナゼか笑い出した。
「な、何?」
「いや、お前らって本当の姉弟みたいだなって思って。だって今琴子もお前と全く同じ事俺に言ってきてたから」
僕は琴子の顔を見て愛想笑いをしておいた。
「で、外泊は?。」
「1泊くらいならいいだろ。何か予定でもあるのか?」
「明日は急すぎるから、あさって外泊させてね。今ちょうど好美のお母さんが来てるから手続きしてくれるよう頼んでくるよ!」
「早く裕樹君が好美ちゃんの保護者になっちゃえば話し早いのにね」
琴子がニヤニヤしながらそう言った。
「ったく誰だよ、この世話焼きナースの保護者はっ!?ほっとくと入江紀子さんみたいになっちゃうゾ!」
「保護者?ああ、その肩書きのせいで確か2回も警察に頭を下げたっけ?。」
お兄ちゃんは水を飲みながら琴子を横目で見た。
「あっ、触れちゃいけない過去なのにっ!!。でも私が教生だったおかげで裕樹君の今の幸せがあるといっても過言ではないんだからねっ!!」
「感謝してるよ、お義姉さんっ!」
僕はテーブルに身を乗り出して琴子のナースキャップを両手で整えてあげた。
「お、お義姉さん?。なんて良い響きなの〜」
と、普段聞き慣れない呼び名にうっとりしてる琴子を見て笑っていたら、お兄ちゃんの声がそれを邪魔した。
「おいっ、好美ちゃんのお母さん来てるんじゃないのか?」
「あっ、そうだった!じゃ、僕行くよ。又後でね」
僕は急いでその場を離れた。
きっと鈍感琴子は気づいてないんだろうな。お兄ちゃんが、弟の僕でさえ琴子に触れることを嫌がることを!。
To be continued
創作・裕樹編 -It started with a kiss 19−
昨日の夜、帰宅した琴子がこう言ったから。
「裕樹君がもうすぐ行っちゃうからかなぁ?。最近好美ちゃんの元気がないの。病院じゃ言えなかったけど、食事も残すし今朝なんて目が腫れてたんだよ!」
「えっ?」
「聞くと、何でもないって答えるんだけどね」
僕には全然心当たりがなかった。だって、今日会った好美はいつもと変わらない態度だったから。
僕はチビをなでる手を止めてソファーに深く腰をかけ直した。
「あなたまだ2年も向こうに行ってなきゃいけないんでしょ。いっそのこと好美ちゃんに休学してもらって一緒に連れて行くっていうのはどうかしら?」
相変わらず恋愛至上主義の入江紀子だ。
「かあさん!僕勉強しにいってるんだゾ。」
そう言ったモノの、確かに僕が向こうに戻る日までもう1週間を切っていた。
気になった僕は好美に内緒で様子をうかがうことにしたんだ。
鴨狩さんと一緒に歩行訓練している好美の顔に笑顔はなかった。ただ淡々とメニューをこなしているという感じだ。
誰に対しても愛想のいい好美にしては表情が硬い気がした。
まぁ、鴨狩さんに向かってニコニコしてる姿見たらきっとムカツクだけなんだけど。
なんせ鴨狩さんはあのお兄ちゃんに初めて『嫉妬』という現象を自覚させた男だから。
男の僕から見ても、キリリとしてるし人当たりもいいし僕達兄弟に不足している熱血感を持っているし・・・正直いい男だとは思う。
なんて余計なことを考えていたら、さっきまでリハビリしていた好美が目の前にいた。
松葉杖ついてうつむいて歩いていたから、僕の胸の辺りに頭からぶつかってきたんだ。
「ごめんなさい、あっ、裕樹君!」
顔を上げた好美は僕の顔を見てうれしそうに笑った。
「よおっ。たまにはお前の頑張り見てみようかと思ってきてみたんだけど、リハビリもう終わったの?。」
「うん、終わったとこ。あっ、そうだ!。お昼ご飯まだでしょ?。今日は天気がいいから売店でおにぎりとお茶買って中庭でお昼食べようよ。もう病院食飽きちゃった!」
そう言って僕の腕を両手で掴んで甘えるようにニッコリ笑っている好美と僕に、丁度リハビリ室から出てきた鴨狩さんが声をかけた。
「どーして入江兄弟はこんなに相手に愛されるんだろーなぁ?。今日初の好美ちゃんの笑顔見たよ。入江兄弟に愛されてる女子は本人達と一緒にいる時本当に幸せそうな顔するんだよなぁ〜。」
確かにお兄ちゃんにまとわりついてる時の琴子はいつも飛びきりうれしそうだし、好美だって現にこうだし・・・。その逆もまたしかりで僕達も好美や琴子の前だけみせる顔があるはずなんだけど。
「彼女たちだけにわかる魅力があるんでしょ」
僕は好美の頭を撫でながらそう言った。
「そーなんだろうなっ。といっても入江兄弟は他の女性にも人気なんだけど・・・本人達は我感せずってところがスゴイよなぁ」
「そう、すごいんです」
僕の代わりに好美が返事をした。
「弟チームは現代っ子らしくオープンなんだな(笑)。好美ちゃん、明日は僕にも少し笑顔見せてくれよなっ!」
そう言って、鴨狩さんは僕の肩を軽く2回叩いて行ってしまった。
「お腹すいた〜、行こう裕樹君!」
僕達も売店へと急いだ。
「好美、暑くない?」
日陰にいるものの8月の太陽はやっぱり強烈だ。ただ座っているだけでも汗がにじんでくる。
「暑いけどここにいたいの。今年の夏は、空より天上見てる時間の方が長かったから」
そう言って好美は青い空を仰いだ。
僕は空を見上げてる好美を自分の方に引き寄せて頭を肩にもたれかけさせた。
「裕樹君、私とひっついてると暑いでしょ?」
そう言って離れようとする好美を、僕はもう一度引き寄せた。
「暑いけどこうしてたいんだ。今年の夏はあんまりこうしてられなかったから」
もう好美が離れようとすることはなかった。
どのくらい時間が経っただろう?。僕達は特に何か話すわけでもなく、ただ一緒に座っていた。
時折吹く秋の気配を感じさせる気温よりも涼しい風が心地よかった。
「好美、今おまえが何考えてるかあててみようか?」
突然口を開いた僕の顔を驚いたような表情で見ている好美に僕は話し続けた。
「せっかく1年ぶりに帰ってきたのに、毎日病院に通わしちゃうし、ぜんぜん楽しい思い出も作れないまんま裕樹君はもう帰っちゃうんだ・・・って今の現状嘆いてるんだろ」
「えっ?。ど、どうして・・・」
「何年お前の彼氏やってると思ってるんだよ。そのくらいのことわかるよ」
僕は面白いくらいに動揺している好美の鼻をつまんだ。
「そーだな。20歳の夏の思い出作ろうか?」
「ほんと?これから?」
好美の瞳がキラキラ輝きだした。
「ほんと。よし、好美にも係りを分担してやるよ。おまえはてるてる坊主つくって決行日が晴れになるよう祈る係りだ」
「それが係り?」
「かなり責任重大だぞ!。っとその前に担当医にいろいろ許可とらないとな。ほら行くゾ、乗れよ」
僕はしゃがんで背中を好美に向けた。
「えっ、だって、その〜、重いよ。私」
戸惑ってる好美の腕をとって、有無を言わせず背中に乗せた。心地良い温もりと重さが僕の背中から伝わってきた。
「病院食本当はうまいんだろ(笑)。鴨狩さんに言ってリハビリメニュー増やしてもらえよっ」
「だから重いって言ったでしょっ!!。降ろしてっ!!」と好美は必死で降りようと抵抗したけど、僕はおかまいなしに歩き続けた。
「ったくあんたたち2人はほんとにいろいろ見せつけてくれるわねぇ〜。病院の気温がますます上がるじゃないのっ!」
病院の廊下を好美を背負って歩いてると桔梗が声をかけてきた。
「あっ、そうだ。桔梗さん、お兄ちゃんは?」
「入江先生ならさっき食堂で琴子につかまってたわよ。あっ、それから好美ちゃんのお母さんがいらしてて病室で待ってるわよ。」
「よしっ、これで一気に話を進められるな。さんきゅー、桔梗さんっ」
「あら、今日はやけに素直じゃない」
僕は好美を病室に届けて、そして好美のお母さんに挨拶してから食堂へと急いだ。
「どーしたの?息切らして。好美ちゃんに何かあった?」
昼食を食べてるお兄ちゃんの横に陣取って、何か一生懸命話しかけてた琴子が僕に気づいて顔を上げた。
「ねぇ、入江先生。そろそろ好美の外泊ってOKにならないの?」
そう言いながら僕は2人の前の席に座った。
「外泊?。そーだな。実は好美ちゃんからお前が帰る日の外出許可をくれって申請があってそれは許可したんだけど」
そう言うと、病院ではいつもcoolなお兄ちゃんがナゼか笑い出した。
「な、何?」
「いや、お前らって本当の姉弟みたいだなって思って。だって今琴子もお前と全く同じ事俺に言ってきてたから」
僕は琴子の顔を見て愛想笑いをしておいた。
「で、外泊は?。」
「1泊くらいならいいだろ。何か予定でもあるのか?」
「明日は急すぎるから、あさって外泊させてね。今ちょうど好美のお母さんが来てるから手続きしてくれるよう頼んでくるよ!」
「早く裕樹君が好美ちゃんの保護者になっちゃえば話し早いのにね」
琴子がニヤニヤしながらそう言った。
「ったく誰だよ、この世話焼きナースの保護者はっ!?ほっとくと入江紀子さんみたいになっちゃうゾ!」
「保護者?ああ、その肩書きのせいで確か2回も警察に頭を下げたっけ?。」
お兄ちゃんは水を飲みながら琴子を横目で見た。
「あっ、触れちゃいけない過去なのにっ!!。でも私が教生だったおかげで裕樹君の今の幸せがあるといっても過言ではないんだからねっ!!」
「感謝してるよ、お義姉さんっ!」
僕はテーブルに身を乗り出して琴子のナースキャップを両手で整えてあげた。
「お、お義姉さん?。なんて良い響きなの〜」
と、普段聞き慣れない呼び名にうっとりしてる琴子を見て笑っていたら、お兄ちゃんの声がそれを邪魔した。
「おいっ、好美ちゃんのお母さん来てるんじゃないのか?」
「あっ、そうだった!じゃ、僕行くよ。又後でね」
僕は急いでその場を離れた。
きっと鈍感琴子は気づいてないんだろうな。お兄ちゃんが、弟の僕でさえ琴子に触れることを嫌がることを!。
To be continued
創作・裕樹編 -It started with a kiss 19−
2007.06.21
創作・裕樹編 -It started with a kiss 17−
僕はお兄ちゃんと一緒に冷房がほど良く効いた病院の食堂でランチを食べていた。
どうもこの病院では僕達2人が揃うと興味をそそる対象になるらしく、前方からも右からも左からも・・・そして背後からも視線を感じて居心地が悪い。
お兄ちゃんが注文した唐揚げ定食の唐揚げが1つ食べたかったけど、こんなに注目されている中「1個ちょうだい」とも言えずにいた。
こんな時、琴子がいて大きな声でくだらない話なんかして気を紛らわせてくれればいいものを、好美の入浴の世話をするということで不在だ。
でも無言のアピールに気が付いたのか、お兄ちゃんは僕の丼ぶりのなかに唐揚げを1つ置いたかと思うと、カツ丼のカツを1つさらっていった。
*続きを読む*
どうもこの病院では僕達2人が揃うと興味をそそる対象になるらしく、前方からも右からも左からも・・・そして背後からも視線を感じて居心地が悪い。
お兄ちゃんが注文した唐揚げ定食の唐揚げが1つ食べたかったけど、こんなに注目されている中「1個ちょうだい」とも言えずにいた。
こんな時、琴子がいて大きな声でくだらない話なんかして気を紛らわせてくれればいいものを、好美の入浴の世話をするということで不在だ。
でも無言のアピールに気が付いたのか、お兄ちゃんは僕の丼ぶりのなかに唐揚げを1つ置いたかと思うと、カツ丼のカツを1つさらっていった。
「君達、入江君だよね」
白衣を着て片手にコーヒーを持った男性が僕達に話しかけてきた。
「す、杉本先生!」
僕は一目でその先生が誰だか思い出した。
お兄ちゃんより少し年配のその先生は、小5の頃腸閉塞になった時にお世話になった先生だった。
当時大学病院での研修医期間を終えて、父親が院長を務めている杉本病院に戻ってきたばかりだった杉本先生だ。
そして父さんがお世話になったのもこの病院だ。
「お久しぶりです。」「その節はありがとうございました、よかったらここどうぞ」
僕達は立って挨拶したあと、隣の席を勧めた。
「今日はこちらで何か?」
「ああ、こちらに検査をお願いしていた物があったからね。」
そう言いながら杉本先生は僕の隣に座った。
「お兄さんの方は医者になったって噂で聞いてたよ。斗南大病院の入江先生といったら優秀で腕が良いってこの業界じゃ有名だからね。」
杉本先生は温厚そうな笑顔でお兄ちゃんを見ていた。
「恐縮です」
お兄ちゃんも食べる手を止めて頭を下げた。
「裕樹君もすっかり大人になったね。お父さんが入院した時会ったのが最後かな?。お父さんはお元気かな?」
「お陰様で父もあれ以来元気でやっています。」
僕はもう一度頭を下げた。
「そう、それは良かった。良かったと言えば、入江先生は裕樹君と同室だったあの木村君の腎臓病も治したんだそうだね」
「ええ。でもあれは僕の力なんか微々たるもので、手術を受けるよう説得してくれた人が治したようなものなんですよ。手術より説得の方が大変でしたから」
お兄ちゃんはご飯を口に運びながら平然とそう言った。
「そういえばいつも君たちと一緒にいた元気なお嬢さんがいたよね。親戚の方だとナース達は噂してたけど・・・彼女のことは聞いても大丈夫なのかな?」
僕は食べてるふりをしながら正面にいるお兄ちゃんの様子を伺った。
「ええ。今も元気に走り回ってますよ」
お兄ちゃんは一瞬箸を動かす動作が止まったものの、相変わらずポーカーフェイスでそう答えた。
「裕樹君が入院した日のことがまだ印象に残っていてね。運ばれてきてオペ室に入るまで、「大丈夫だよ」って言いながらずっと痛がってる裕樹君の頭や腕やお腹を撫でるのを止めなくてね。最近は母親でもそこまでしない人が多いからね」
お兄ちゃんは杉本先生の話を黙って聞いていた。でも杉本先生のことを真っ直ぐ見ながらとても穏やかな顔をしていた。
「手術が必要だと言ったときも、ブルブル震えながら必死でお姉さん役果たしていた姿が印象的でね。僕に「絶対、絶対無事にお願いしますっ!」ってね。その時掴まれたぼくの腕にくっきり彼女の握った跡が付いた程だったよ。手術前の大事な腕なのに(笑)。裕樹君の前では泣かないように我慢していたんだろうね。裕樹君が運ばれていく姿見送った後大泣きしてね。そして手術が成功した後もまた僕の腕を握って大泣きして、彼女の握った跡が二重についたんだ」
(そんなことがあったんだ・・・)僕には当時の記憶があまりない。あれから年数が経ってしまったということで、今覚えていることと言えば死ぬほど苦しかったというと、琴子が付き添って励ましてくれたっていう漠然とした記憶があるだけだ。
お兄ちゃんがいない場所でも僕の為に一生懸命な琴子の姿が頭に浮かんで、僕は少し笑った。
「あんなに親身になってたからすっかり裕樹君のお姉さんだと思っていたら、院長から入江家は2人兄弟だと聞いて本当に驚いたよ」
杉本先生の表情から、先生は琴子にかなり好意を持ってると思った僕は、とっさに
「彼女、僕の姉ですよ」
とわかりやすいバリアを張った。言った後、大人げなくて少しバツが悪かったけど、無意識にそう言ってしまったんだ。
「えっ?。でも君たちは2人兄弟だって・・・」
杉本先生は持ち上げかけたコーヒーカップを再びソーサーに戻した。突然の僕の発言に驚いたみたいだ。
それまで黙って話を聞いていたお兄ちゃんが少し笑いながら口を開いた。
「今彼女は、裕樹の義姉で、僕の妻です」
一瞬驚いた顔をしたものの、再び笑顔に戻った杉本先生は
「そーだったのか。実は当時うちのナースがいろいろ噂しててね。どうもあの子はお兄さんのことが大好きなのに、お兄さんは全然脈無しだって。で、僕は内心思っていたんだよ。お兄さんは見る目ないなって(笑)。」
そう言ってクスクス笑った。
「そうですか(笑)。今もあの頃と変わらず、僕の大切な人を僕以上に大切にしてくれてますよ。僕が人生の中で下した選択の中で、一番良かったと胸を張って言える選択は医者になったことよりも彼女を妻にしたことだと思ってます」
お兄ちゃんは僕以上のバリアを杉本先生に張った。お兄ちゃんが人前でこんなことを言うのを聞いたのは初めてだ。僕はお兄ちゃんの発言に驚いて箸が止まっていた。
「今は君の腕にしっかりつかまってるんだね。」
杉本先生はお兄ちゃんを真っ直ぐ見ながらそう言って笑った。
「ええ。跡はついていませんけどね」
そう言いながらお兄ちゃんは食堂の入り口の方に目をやった。
僕がその方を見ると、お兄ちゃんの視線の先には手を振りながら大声を出してる琴子がいた。
「あっ、いたいた!裕樹く〜んっ、もう病室に行ってもいいよぉーっ!。あっ、入江君の隣の席keepねっ!」
「じゃあ、裕樹君の隣はアタシがkeep!」
「ダメだよっ!モトちゃんを裕樹君の横に座らせるだなんてそんな危険なことさせられないわっ!真理奈っ、好美ちゃんの為にも阻止するわよっ!!」
琴子は桔梗や真理奈さんと先を争いながら注文の列に直行した。一瞬にして食堂が賑やかになった。
「あっ、彼女は・・・!!」
驚いてる杉本先生にお兄ちゃんは
「今この病院のナースやってるんです。優秀じゃないけどいいナースですよ。木村君に手術を受けるよう説得したのも彼女です」
そう言って再びご飯を食べ始めた。
「きゃーっ、入江君も唐揚げ定食?私たちやっぱり運命共同体だねっ!!」
唐揚げ定食を持ってやってきた琴子は、腰掛けながら隣のトレーの中を見てうれしそうに声を上げ、お兄ちゃんの腕に腕を絡めた。
いつもなら人前でこんなことされたら「うっとーしーなっ」って顔をするお兄ちゃんが今日はされるがままだ。
僕と杉本先生は一瞬顔を見合わせた後、うつむいて笑った。
でも、その直後
「あら、裕樹君はアタシと一緒。アタシ達も運命共同体ねっ」
という桔梗さんの台詞に僕は凍り付いたんだけど。
To be continued
創作・裕樹編 -It started with a kiss 18−
白衣を着て片手にコーヒーを持った男性が僕達に話しかけてきた。
「す、杉本先生!」
僕は一目でその先生が誰だか思い出した。
お兄ちゃんより少し年配のその先生は、小5の頃腸閉塞になった時にお世話になった先生だった。
当時大学病院での研修医期間を終えて、父親が院長を務めている杉本病院に戻ってきたばかりだった杉本先生だ。
そして父さんがお世話になったのもこの病院だ。
「お久しぶりです。」「その節はありがとうございました、よかったらここどうぞ」
僕達は立って挨拶したあと、隣の席を勧めた。
「今日はこちらで何か?」
「ああ、こちらに検査をお願いしていた物があったからね。」
そう言いながら杉本先生は僕の隣に座った。
「お兄さんの方は医者になったって噂で聞いてたよ。斗南大病院の入江先生といったら優秀で腕が良いってこの業界じゃ有名だからね。」
杉本先生は温厚そうな笑顔でお兄ちゃんを見ていた。
「恐縮です」
お兄ちゃんも食べる手を止めて頭を下げた。
「裕樹君もすっかり大人になったね。お父さんが入院した時会ったのが最後かな?。お父さんはお元気かな?」
「お陰様で父もあれ以来元気でやっています。」
僕はもう一度頭を下げた。
「そう、それは良かった。良かったと言えば、入江先生は裕樹君と同室だったあの木村君の腎臓病も治したんだそうだね」
「ええ。でもあれは僕の力なんか微々たるもので、手術を受けるよう説得してくれた人が治したようなものなんですよ。手術より説得の方が大変でしたから」
お兄ちゃんはご飯を口に運びながら平然とそう言った。
「そういえばいつも君たちと一緒にいた元気なお嬢さんがいたよね。親戚の方だとナース達は噂してたけど・・・彼女のことは聞いても大丈夫なのかな?」
僕は食べてるふりをしながら正面にいるお兄ちゃんの様子を伺った。
「ええ。今も元気に走り回ってますよ」
お兄ちゃんは一瞬箸を動かす動作が止まったものの、相変わらずポーカーフェイスでそう答えた。
「裕樹君が入院した日のことがまだ印象に残っていてね。運ばれてきてオペ室に入るまで、「大丈夫だよ」って言いながらずっと痛がってる裕樹君の頭や腕やお腹を撫でるのを止めなくてね。最近は母親でもそこまでしない人が多いからね」
お兄ちゃんは杉本先生の話を黙って聞いていた。でも杉本先生のことを真っ直ぐ見ながらとても穏やかな顔をしていた。
「手術が必要だと言ったときも、ブルブル震えながら必死でお姉さん役果たしていた姿が印象的でね。僕に「絶対、絶対無事にお願いしますっ!」ってね。その時掴まれたぼくの腕にくっきり彼女の握った跡が付いた程だったよ。手術前の大事な腕なのに(笑)。裕樹君の前では泣かないように我慢していたんだろうね。裕樹君が運ばれていく姿見送った後大泣きしてね。そして手術が成功した後もまた僕の腕を握って大泣きして、彼女の握った跡が二重についたんだ」
(そんなことがあったんだ・・・)僕には当時の記憶があまりない。あれから年数が経ってしまったということで、今覚えていることと言えば死ぬほど苦しかったというと、琴子が付き添って励ましてくれたっていう漠然とした記憶があるだけだ。
お兄ちゃんがいない場所でも僕の為に一生懸命な琴子の姿が頭に浮かんで、僕は少し笑った。
「あんなに親身になってたからすっかり裕樹君のお姉さんだと思っていたら、院長から入江家は2人兄弟だと聞いて本当に驚いたよ」
杉本先生の表情から、先生は琴子にかなり好意を持ってると思った僕は、とっさに
「彼女、僕の姉ですよ」
とわかりやすいバリアを張った。言った後、大人げなくて少しバツが悪かったけど、無意識にそう言ってしまったんだ。
「えっ?。でも君たちは2人兄弟だって・・・」
杉本先生は持ち上げかけたコーヒーカップを再びソーサーに戻した。突然の僕の発言に驚いたみたいだ。
それまで黙って話を聞いていたお兄ちゃんが少し笑いながら口を開いた。
「今彼女は、裕樹の義姉で、僕の妻です」
一瞬驚いた顔をしたものの、再び笑顔に戻った杉本先生は
「そーだったのか。実は当時うちのナースがいろいろ噂しててね。どうもあの子はお兄さんのことが大好きなのに、お兄さんは全然脈無しだって。で、僕は内心思っていたんだよ。お兄さんは見る目ないなって(笑)。」
そう言ってクスクス笑った。
「そうですか(笑)。今もあの頃と変わらず、僕の大切な人を僕以上に大切にしてくれてますよ。僕が人生の中で下した選択の中で、一番良かったと胸を張って言える選択は医者になったことよりも彼女を妻にしたことだと思ってます」
お兄ちゃんは僕以上のバリアを杉本先生に張った。お兄ちゃんが人前でこんなことを言うのを聞いたのは初めてだ。僕はお兄ちゃんの発言に驚いて箸が止まっていた。
「今は君の腕にしっかりつかまってるんだね。」
杉本先生はお兄ちゃんを真っ直ぐ見ながらそう言って笑った。
「ええ。跡はついていませんけどね」
そう言いながらお兄ちゃんは食堂の入り口の方に目をやった。
僕がその方を見ると、お兄ちゃんの視線の先には手を振りながら大声を出してる琴子がいた。
「あっ、いたいた!裕樹く〜んっ、もう病室に行ってもいいよぉーっ!。あっ、入江君の隣の席keepねっ!」
「じゃあ、裕樹君の隣はアタシがkeep!」
「ダメだよっ!モトちゃんを裕樹君の横に座らせるだなんてそんな危険なことさせられないわっ!真理奈っ、好美ちゃんの為にも阻止するわよっ!!」
琴子は桔梗や真理奈さんと先を争いながら注文の列に直行した。一瞬にして食堂が賑やかになった。
「あっ、彼女は・・・!!」
驚いてる杉本先生にお兄ちゃんは
「今この病院のナースやってるんです。優秀じゃないけどいいナースですよ。木村君に手術を受けるよう説得したのも彼女です」
そう言って再びご飯を食べ始めた。
「きゃーっ、入江君も唐揚げ定食?私たちやっぱり運命共同体だねっ!!」
唐揚げ定食を持ってやってきた琴子は、腰掛けながら隣のトレーの中を見てうれしそうに声を上げ、お兄ちゃんの腕に腕を絡めた。
いつもなら人前でこんなことされたら「うっとーしーなっ」って顔をするお兄ちゃんが今日はされるがままだ。
僕と杉本先生は一瞬顔を見合わせた後、うつむいて笑った。
でも、その直後
「あら、裕樹君はアタシと一緒。アタシ達も運命共同体ねっ」
という桔梗さんの台詞に僕は凍り付いたんだけど。
To be continued
創作・裕樹編 -It started with a kiss 18−
2007.06.15
創作・裕樹編 -It started with a kiss 16−
やっと梅雨が明けた。
そして気が付くと街から制服をきた学生達が消えていた。
僕はずいぶん前から休暇中だったからもう感覚がマヒして気が付かなかったけど、世間は今夏休みなんだ。
*続きを読む*
そして気が付くと街から制服をきた学生達が消えていた。
僕はずいぶん前から休暇中だったからもう感覚がマヒして気が付かなかったけど、世間は今夏休みなんだ。
「よぉっ・・・っ、あっ・・・出直した方がいい?」
病室に入ると見慣れない見舞客が好美と楽しそうに話していた。何度かここで好美の友達と顔を合わせたことがあるけど、初めてみる顔だ。
「ほ、ほんとだぁ〜。あの頃よりかなり成長してるけど、あの入江君だぁ〜!すごく格好良くなってるっ!!」
振り返って僕の顔を見るなりその女性は大きな声を上げた。
僕はどう反応して良いかわからず視線で好美に助けを求めた。
「裕樹君、彼女のこと覚えてる?小・中と同級生だった佐藤彩ちゃん。中2の時転校して行っちゃったんだけどね。」
「佐藤さん?」
思い出せない・・・。
「どうせ入江君はF組の女子の事なんて眼中になかったもんね。こうして近くで話せる日がくるだなんて思わなかったわ(笑)。ねぇ入江君、座らないの?」
う゛っ、封印したい僕の過去をまたえぐったな!!でも事実だから仕方ない。僕は血祭りに上げられる覚悟をきめて、佐藤さんの隣の椅子に座った。
佐藤さんは人見知りしない性格らしい。そして女子2人は顔を見合わせて笑っていた。
「好美調子は?」
「うん、今日もいいよ」
「うわっ、呼び捨てだっ!!。ホントに付き合ってるんだ(笑)。手紙で近況教えてもらってたから付き合ってるのは知ってたけど、全然想像できなくて・・・。でもここにこんなに仲良し写真が沢山あるし、実際に入江君はここにいるし・・・本当に付き合ってるんだねぇ〜。いいなぁ〜」
佐藤さんは僕と好美を何度も交互に見ながらうなずいていた。
「なんだか楽しそうねっ!好美ちゃん、熱計らせてね」
ノックと同時に琴子が入ってきた。
「い、入江先生?」
ナース姿の琴子を見て目を丸くした佐藤さんが琴子に声をかけた。
「いやぁねぇ、入江先生は私の旦那さまで私はナースよ」
琴子はうれしそうにニヤつきながら好美に体温計を渡した。
「入江先生でしょ?教生で1-Aの副担だった!。ナースになったって聞いてたけど、ホントだったんだ!入江先生でもナースになれたんだっ!!」
「ん?失礼ね。斗南大病院の優秀なナイチンゲールに向かって・・・ってあなた1-Fの佐藤さん!?」
「入江先生っ!!」
どうやらこの2人も感動の再会を果たせたようだ。女子高生のように手を取り合ってキャッキャ言ってる。
しかしあのおバカの琴子が佐藤さんの存在を覚えていただなんて・・・短期間だったとはいえさすが先生だ。
「へ〜、大阪に引っ越しちゃったんだ。」
佐藤さんの話に興味津々な琴子は、ベッドの縁に座ってすっかり話の輪に加わっていた。
「うん、今大阪で大学生やってる。好美が入院してるってきいたから夏休みに入ってすぐこっちに来てみたの。弟が丁度こっちの大学だから。そういえば入江君って入江先生の義弟だよね」
「そーなのっ。だって裕樹君を義弟にするために青春の全てを捧げたんだもん(笑)。頑張ったのよぉ〜!」
「紛らわしい言い方すんなよっ。ストレートにお兄ちゃんにつきまとって根負けさせたって言えよ」
「なによっ、人をストーカーのようにっ!!」
怒ってる琴子が面白くて僕と好美はくすくす笑っていた。
「あっ、この毒舌やっぱり入江君だ(笑)。でも入江君のお兄さんって神童で斗南の伝説にもなってる人でしょ?。女ギライだったって噂もあったし・・・。教生で来てた時もどうしてそんな神童がドジな入江先生と結婚したのか不思議でしょうがなかったの。先生、どういう技を使ったの?今後の参考にきかせてよ!」
身を乗り出して琴子に質問する佐藤さんに
「お兄ちゃん、魔が差しちゃったんだよ。弱ってたからなぁ〜あの頃」
と琴子に代わって僕が答えた。
「ひ、ひどいっ!!寄って集ってっ。私にだって探せば良いところがあるのよっ!い、入江君はその良さをさがすのに4年かかったけど」
語尾になるほど声が小さくなる琴子をもっとからかいたくなって、僕は更に追い打ちをかけた。
「お兄ちゃんだから4年で見つけられたんだ。僕なんてまだ見つけられないよ」
そう言いながら笑ってる僕を、佐藤さんの一言が凍り付かせた。
「好美は小学部のころから入江君一筋だったよね。F組じゃ有名な話だったもんね。一体何年で良さを見つけてもらったの?」
「ち、ちょっと彩ちゃんっ!!」
あたふたしてる好美の顔を見ながら僕は聞いた。
「小学部?」
「そーよっ、好美ちゃんは裕樹君のこと小学部の時から好きだったのよ。」
琴子がなぜか勝ち誇ったような顔で僕を見て笑ってる。おいおい、なんで琴子まで知ってて僕が知らなかったんだ?。これじゃ、形勢逆転じゃないか。
「えっ?もしかして知らなかったの?」
琴子と佐藤さんの声がハモった。
「うん、中学からかと・・・」
「小学部は偏差値別のクラス分けじゃなかったから毎年同じクラスになれるようお祈りしてたのに、結局1回も同じクラスになれなかったんだよね(笑)。」
「懐かしいね。6年の時クラス分けが決まった日は家に帰って泣いちゃったもん。もう一生同じクラスになれないって(笑)」
当時の気分にタイムスリップしたのか、照れてた好美も佐藤さんと一緒に盛り上がってる。
「中学の時、頑張って100番以内に入って入江君と友達になれったって聞いたときは本当に驚いたワ。ほんと、あの頃から入江君の事に関しては根性あったよね。」
「入江家の男を堕とすのにはホント根性が必要なのよぉ〜!」
琴子が立ち上がって、感心しきりの佐藤さんに雄弁を振るおうとした時背後から声がした。
「ったく、やっぱりここか。琴子、その根性仕事にも注げよ。清水主任がおまえが帰ってこないって捜してるゾ。」
「い、入江君・・・」
白衣のポケットに手をつっこんだまま立ってるお兄ちゃんの姿をみた途端、しおらしくなる琴子。
「じゃ、私行くね。佐藤さん、またね。みんな、バイバイ。入江君もまたね。」
カルテを抱えて身体を小さく縮めながら、いろんな人に手を振りながら琴子が部屋から出て行った。
「邪魔して悪かったね。好美ちゃん、明日から歩行訓練だろ?鴨狩が担当だってな。頑張れよ。じゃ、俺も行くよ。」
お兄ちゃんがさわやかな笑顔を僕達に残して行ったりするから・・・。
「い、今のが神童って言われてる入江くんのお兄さん?。初めて見たぁ。す、すごくかっこい〜っ!!」
お兄ちゃんに見とれていた佐藤さんが、振り返って興奮気味に僕達に聞いてきた。
「そう、今のが裕樹君のお兄さんで、琴子先生のダンナ様」
「ねっ、入江君、他に弟とかもう1人お兄さんとかいないの?いたら私も根性で頑張るのにっ!!」
僕の腕をとって揺さぶられても・・・(笑)。
「残念だけど2人兄弟だよ。」
「じゃ、入江先生に男の子を産んでもらって、今から予約しておくっていうのはどうかな?。私入江先生に頼んでくるっ!!。ついでにもう1回お兄さん見て目の保養してくる!」
佐藤さんはそういうと病室を飛び出して行ってしまった。
「佐藤さんってすごいな・・・」
僕はさっきまで佐藤さんが座っていた好美に近い方の椅子に座り直した。
「面白い子でしょっ。中学の頃から全然変わってないよ。でも、私が先に裕樹君好きだって宣言してなかったら今頃どうなってたか」
「ところで、さっきの話だけど・・・。その宣言は一体いつしてくれたの?」
一瞬「あっ」って顔したけど、観念したらしく小声でボソボソと打ち明け始めた。
「うん、小3の時。全クラス合同の課外授業で裕樹君をみかけて、それで・・・。言うと重い女だと思われそうで言えなかったの。でも先見の明があるってことで・・・。」
そんな頃から?チビがうちに来るよりも前からじゃないかっ!!
「ばーか。あんな意地悪でチビでずんぐりした奴のどこが良かったんだよ。でも・・・そんな頃から好きでいてくれてありがとう」
僕は立ち上がって、うつむいて目を合わせようとしない好美にkissをした。
To be continued
創作・裕樹編 -It started with a kiss 17−
病室に入ると見慣れない見舞客が好美と楽しそうに話していた。何度かここで好美の友達と顔を合わせたことがあるけど、初めてみる顔だ。
「ほ、ほんとだぁ〜。あの頃よりかなり成長してるけど、あの入江君だぁ〜!すごく格好良くなってるっ!!」
振り返って僕の顔を見るなりその女性は大きな声を上げた。
僕はどう反応して良いかわからず視線で好美に助けを求めた。
「裕樹君、彼女のこと覚えてる?小・中と同級生だった佐藤彩ちゃん。中2の時転校して行っちゃったんだけどね。」
「佐藤さん?」
思い出せない・・・。
「どうせ入江君はF組の女子の事なんて眼中になかったもんね。こうして近くで話せる日がくるだなんて思わなかったわ(笑)。ねぇ入江君、座らないの?」
う゛っ、封印したい僕の過去をまたえぐったな!!でも事実だから仕方ない。僕は血祭りに上げられる覚悟をきめて、佐藤さんの隣の椅子に座った。
佐藤さんは人見知りしない性格らしい。そして女子2人は顔を見合わせて笑っていた。
「好美調子は?」
「うん、今日もいいよ」
「うわっ、呼び捨てだっ!!。ホントに付き合ってるんだ(笑)。手紙で近況教えてもらってたから付き合ってるのは知ってたけど、全然想像できなくて・・・。でもここにこんなに仲良し写真が沢山あるし、実際に入江君はここにいるし・・・本当に付き合ってるんだねぇ〜。いいなぁ〜」
佐藤さんは僕と好美を何度も交互に見ながらうなずいていた。
「なんだか楽しそうねっ!好美ちゃん、熱計らせてね」
ノックと同時に琴子が入ってきた。
「い、入江先生?」
ナース姿の琴子を見て目を丸くした佐藤さんが琴子に声をかけた。
「いやぁねぇ、入江先生は私の旦那さまで私はナースよ」
琴子はうれしそうにニヤつきながら好美に体温計を渡した。
「入江先生でしょ?教生で1-Aの副担だった!。ナースになったって聞いてたけど、ホントだったんだ!入江先生でもナースになれたんだっ!!」
「ん?失礼ね。斗南大病院の優秀なナイチンゲールに向かって・・・ってあなた1-Fの佐藤さん!?」
「入江先生っ!!」
どうやらこの2人も感動の再会を果たせたようだ。女子高生のように手を取り合ってキャッキャ言ってる。
しかしあのおバカの琴子が佐藤さんの存在を覚えていただなんて・・・短期間だったとはいえさすが先生だ。
「へ〜、大阪に引っ越しちゃったんだ。」
佐藤さんの話に興味津々な琴子は、ベッドの縁に座ってすっかり話の輪に加わっていた。
「うん、今大阪で大学生やってる。好美が入院してるってきいたから夏休みに入ってすぐこっちに来てみたの。弟が丁度こっちの大学だから。そういえば入江君って入江先生の義弟だよね」
「そーなのっ。だって裕樹君を義弟にするために青春の全てを捧げたんだもん(笑)。頑張ったのよぉ〜!」
「紛らわしい言い方すんなよっ。ストレートにお兄ちゃんにつきまとって根負けさせたって言えよ」
「なによっ、人をストーカーのようにっ!!」
怒ってる琴子が面白くて僕と好美はくすくす笑っていた。
「あっ、この毒舌やっぱり入江君だ(笑)。でも入江君のお兄さんって神童で斗南の伝説にもなってる人でしょ?。女ギライだったって噂もあったし・・・。教生で来てた時もどうしてそんな神童がドジな入江先生と結婚したのか不思議でしょうがなかったの。先生、どういう技を使ったの?今後の参考にきかせてよ!」
身を乗り出して琴子に質問する佐藤さんに
「お兄ちゃん、魔が差しちゃったんだよ。弱ってたからなぁ〜あの頃」
と琴子に代わって僕が答えた。
「ひ、ひどいっ!!寄って集ってっ。私にだって探せば良いところがあるのよっ!い、入江君はその良さをさがすのに4年かかったけど」
語尾になるほど声が小さくなる琴子をもっとからかいたくなって、僕は更に追い打ちをかけた。
「お兄ちゃんだから4年で見つけられたんだ。僕なんてまだ見つけられないよ」
そう言いながら笑ってる僕を、佐藤さんの一言が凍り付かせた。
「好美は小学部のころから入江君一筋だったよね。F組じゃ有名な話だったもんね。一体何年で良さを見つけてもらったの?」
「ち、ちょっと彩ちゃんっ!!」
あたふたしてる好美の顔を見ながら僕は聞いた。
「小学部?」
「そーよっ、好美ちゃんは裕樹君のこと小学部の時から好きだったのよ。」
琴子がなぜか勝ち誇ったような顔で僕を見て笑ってる。おいおい、なんで琴子まで知ってて僕が知らなかったんだ?。これじゃ、形勢逆転じゃないか。
「えっ?もしかして知らなかったの?」
琴子と佐藤さんの声がハモった。
「うん、中学からかと・・・」
「小学部は偏差値別のクラス分けじゃなかったから毎年同じクラスになれるようお祈りしてたのに、結局1回も同じクラスになれなかったんだよね(笑)。」
「懐かしいね。6年の時クラス分けが決まった日は家に帰って泣いちゃったもん。もう一生同じクラスになれないって(笑)」
当時の気分にタイムスリップしたのか、照れてた好美も佐藤さんと一緒に盛り上がってる。
「中学の時、頑張って100番以内に入って入江君と友達になれったって聞いたときは本当に驚いたワ。ほんと、あの頃から入江君の事に関しては根性あったよね。」
「入江家の男を堕とすのにはホント根性が必要なのよぉ〜!」
琴子が立ち上がって、感心しきりの佐藤さんに雄弁を振るおうとした時背後から声がした。
「ったく、やっぱりここか。琴子、その根性仕事にも注げよ。清水主任がおまえが帰ってこないって捜してるゾ。」
「い、入江君・・・」
白衣のポケットに手をつっこんだまま立ってるお兄ちゃんの姿をみた途端、しおらしくなる琴子。
「じゃ、私行くね。佐藤さん、またね。みんな、バイバイ。入江君もまたね。」
カルテを抱えて身体を小さく縮めながら、いろんな人に手を振りながら琴子が部屋から出て行った。
「邪魔して悪かったね。好美ちゃん、明日から歩行訓練だろ?鴨狩が担当だってな。頑張れよ。じゃ、俺も行くよ。」
お兄ちゃんがさわやかな笑顔を僕達に残して行ったりするから・・・。
「い、今のが神童って言われてる入江くんのお兄さん?。初めて見たぁ。す、すごくかっこい〜っ!!」
お兄ちゃんに見とれていた佐藤さんが、振り返って興奮気味に僕達に聞いてきた。
「そう、今のが裕樹君のお兄さんで、琴子先生のダンナ様」
「ねっ、入江君、他に弟とかもう1人お兄さんとかいないの?いたら私も根性で頑張るのにっ!!」
僕の腕をとって揺さぶられても・・・(笑)。
「残念だけど2人兄弟だよ。」
「じゃ、入江先生に男の子を産んでもらって、今から予約しておくっていうのはどうかな?。私入江先生に頼んでくるっ!!。ついでにもう1回お兄さん見て目の保養してくる!」
佐藤さんはそういうと病室を飛び出して行ってしまった。
「佐藤さんってすごいな・・・」
僕はさっきまで佐藤さんが座っていた好美に近い方の椅子に座り直した。
「面白い子でしょっ。中学の頃から全然変わってないよ。でも、私が先に裕樹君好きだって宣言してなかったら今頃どうなってたか」
「ところで、さっきの話だけど・・・。その宣言は一体いつしてくれたの?」
一瞬「あっ」って顔したけど、観念したらしく小声でボソボソと打ち明け始めた。
「うん、小3の時。全クラス合同の課外授業で裕樹君をみかけて、それで・・・。言うと重い女だと思われそうで言えなかったの。でも先見の明があるってことで・・・。」
そんな頃から?チビがうちに来るよりも前からじゃないかっ!!
「ばーか。あんな意地悪でチビでずんぐりした奴のどこが良かったんだよ。でも・・・そんな頃から好きでいてくれてありがとう」
僕は立ち上がって、うつむいて目を合わせようとしない好美にkissをした。
To be continued
創作・裕樹編 -It started with a kiss 17−
2007.06.06
創作・裕樹編 -It started with a kiss 15−
七夕を迎える頃、好美は車イスで外に出られるようになっていた。
その日僕が家に帰るとリビングから賑やかな声が聞こえてきた。
「ただいま」
ドアを開けると琴子と葵、そして母さんが七夕の飾り付けをしていた。
*続きを読む*
その日僕が家に帰るとリビングから賑やかな声が聞こえてきた。
「ただいま」
ドアを開けると琴子と葵、そして母さんが七夕の飾り付けをしていた。
「あっ、お帰り裕樹君。ちゃんと毎日病院に通ってるだなんて、裕樹君もラブラブねぇ〜」
琴子がニヤニヤしながらそう言った。
「お陰様でね。今日から車イスで外に出られるようになったんだよ」
「まーっ、良かったわね。これでますますデート気分を味わえるんじゃない?ママ、明日お見舞いに行こうと思ってたんだけど・・・いいかしら?」
「いいんじゃない?でも長居しないでよ。それよりお腹すいたよ!」
母さんが食事の支度にキッチンに行くのを見て、僕はその代わりに飾り付けに参加した。
葵は僕の膝の上に乗っかって飾り付けを続けた。
「ねえ、裕樹君。もし私が入院したとして入江君は毎日お見舞いに来てくれるかなぁ?」
琴子は短冊を手に持ったまま、あれこれ想像し始めてしまったようだ。
「医者なんだから毎日病院にいるだろ」
僕は細く切られた色紙でリングを作りながら答えた。久しぶりの工作って感じ。
「そういうんじゃなくて、もし病院勤務じゃなくても毎日会いに来てくれるかなってこと」
「さぁ?本人に聞いてみればいいじゃん」
ひたすら手を動かしながら答えた。
「どうせうまくかわされるに決まってるもん。あーあ、いいなぁ〜好美ちゃんは愛されてて。あっ
!そうだ葵っ!ママが入院したら毎日パパに『ママに会いに行きたい』ってお願いしてね。」
「は〜い」
琴子のイヤラシイ企みとも知らず素直に返事をする葵。ったくもういい大人なのに困ったママだよ
!
「おいおい、そんなことに子供使うなよっ。」
「あら、だって葵だって毎日ママに会いたいよね?」
ニコニコしながら「うん」と頷く葵がけなげすぎるっ!!
本当はお兄ちゃんだってdeepに琴子のこと愛してること・・・絶対教えてやらないっ!!
僕は話題を変えようと
「葵は何お願い事したの?」
と、熱心に短冊に何かを書き込んでる葵に聞いてみた。
「パパのお嫁さんになるの」
「そっか、葵はパパが大好きなんだ」
「うん!」
へ〜っ、このまだ文字とはいえない象形文字のようなものはそういう内容なんだと感心してたら琴子が割って入ってきた。
「葵、いい子だから良く聞いてね。もう何回も言ってるけど・・・ママは葵のことが大好きよ。葵の希望はなんでも叶えてあげたいけど、でもね、パパと結婚することだけは叶えてあげられないの。パパのお嫁さんはママなのよ!」
(おいおい、今度は子供相手に真顔かよ)
「だめ!葵がお嫁さん
!」
葵はふくれっ面で琴子を睨みつけてる。
「ったく、子供相手に何ムキになってんだよ?」
「子供じゃないわっ!これは女と女の戦いなのよ」
なるほど・・・。この緊迫した感じ、女vs女って感じもする。なんせ葵には猪な琴子の血も半分流れてるんだもんな。
「
!。そうだ!葵、裕樹おじちゃんのことも大好きでしょ?裕樹おじちゃんはまだ結婚してないからお嫁さんになれるわよ?どう?裕樹おじちゃんもかっこいいよぉ〜。」
「お、おい。いい加減なこと言うなよ!」
慌ててる僕をよそに、少し考えていた葵は
「うん!葵、裕樹おじちゃんのお嫁さんになる!」
とニコニコ僕に抱きついてきてほっぺにkissしてきた。
この状態を拒絶できる鬼みたいな心を持っている人がいたら是非お目にかかってみたい。
「そっか。おじちゃんのお嫁さんになるか?」
僕も葵のほっぺにkissを返した。
きゃっきゃと喜んだ葵は新しい短冊に新しいお願い事を書き始めた。
翌朝僕が少し遅めにキッチンに降りていくとお兄ちゃんが家に帰ってきて朝食を食べていた。
「おはよ。今帰ったの?」
「ああ
。」
なんか不機嫌そうだなぁ。こんな日に限って琴子はもう出勤してるのかよぉ?
僕はあまり刺激しないようにそっと朝食を食べ始めた。
と、おませな葵がすかさず僕の隣に自分のイスを持ってきて座った。
「沢山食べてね!」
と、すっかり奥さん気取りだ。女の子の成長ってホント怖い。
「お前、葵と結婚するんだってな」
お兄ちゃんの声と一緒に、新聞をめくる音がいつもより大きく聞こえた。
あっ、不機嫌の原因発見!
「それはその・・・葵は本当はパパと結婚したいんだよね?」
「うん!でもママがダメって!だから裕樹おじちゃんのお嫁さんになるの」
お兄ちゃんの口元が緩んだ。
「今からお見舞い?」
僕が玄関で靴を履いてるとお風呂から上がったお兄ちゃんがバスタオルで頭をふきながら歩いてきた。機嫌はすっかり直ってるようだ。
「うん。午後は暑いから午前中に外に連れ出してやろうと思って」
「毎日ご苦労だな。でも二股かけるヤツに葵はやらないからな」
そういって部屋に戻ろうとしたお兄ちゃんを僕は呼び止めた。
「お兄ちゃん、もし琴子が入院したらお兄ちゃん毎日お見舞いに行く?」
「なんだよ、急に。それに俺の職場は病院だぞ」
「でもほら、休みの日とかもあるし・・・」
「さあ?なってみなきゃわかんないけど・・・きっと葵が行きたがるだろ」
「そっか。そうだね葵にお願いされちゃしょうがないよね。じゃ、行ってきます」
僕は笑い出しそうになるのをこらえて家を出た。
To be continued
創作・裕樹編 -It started with a kiss 16−
琴子がニヤニヤしながらそう言った。
「お陰様でね。今日から車イスで外に出られるようになったんだよ」
「まーっ、良かったわね。これでますますデート気分を味わえるんじゃない?ママ、明日お見舞いに行こうと思ってたんだけど・・・いいかしら?」
「いいんじゃない?でも長居しないでよ。それよりお腹すいたよ!」
母さんが食事の支度にキッチンに行くのを見て、僕はその代わりに飾り付けに参加した。
葵は僕の膝の上に乗っかって飾り付けを続けた。
「ねえ、裕樹君。もし私が入院したとして入江君は毎日お見舞いに来てくれるかなぁ?」
琴子は短冊を手に持ったまま、あれこれ想像し始めてしまったようだ。
「医者なんだから毎日病院にいるだろ」
僕は細く切られた色紙でリングを作りながら答えた。久しぶりの工作って感じ。
「そういうんじゃなくて、もし病院勤務じゃなくても毎日会いに来てくれるかなってこと」
「さぁ?本人に聞いてみればいいじゃん」
ひたすら手を動かしながら答えた。
「どうせうまくかわされるに決まってるもん。あーあ、いいなぁ〜好美ちゃんは愛されてて。あっ
!そうだ葵っ!ママが入院したら毎日パパに『ママに会いに行きたい』ってお願いしてね。」「は〜い」
琴子のイヤラシイ企みとも知らず素直に返事をする葵。ったくもういい大人なのに困ったママだよ
!「おいおい、そんなことに子供使うなよっ。」
「あら、だって葵だって毎日ママに会いたいよね?」
ニコニコしながら「うん」と頷く葵がけなげすぎるっ!!
本当はお兄ちゃんだってdeepに琴子のこと愛してること・・・絶対教えてやらないっ!!
僕は話題を変えようと
「葵は何お願い事したの?」
と、熱心に短冊に何かを書き込んでる葵に聞いてみた。
「パパのお嫁さんになるの」
「そっか、葵はパパが大好きなんだ」
「うん!」
へ〜っ、このまだ文字とはいえない象形文字のようなものはそういう内容なんだと感心してたら琴子が割って入ってきた。
「葵、いい子だから良く聞いてね。もう何回も言ってるけど・・・ママは葵のことが大好きよ。葵の希望はなんでも叶えてあげたいけど、でもね、パパと結婚することだけは叶えてあげられないの。パパのお嫁さんはママなのよ!」
(おいおい、今度は子供相手に真顔かよ)
「だめ!葵がお嫁さん
!」葵はふくれっ面で琴子を睨みつけてる。
「ったく、子供相手に何ムキになってんだよ?」
「子供じゃないわっ!これは女と女の戦いなのよ」
なるほど・・・。この緊迫した感じ、女vs女って感じもする。なんせ葵には猪な琴子の血も半分流れてるんだもんな。
「
!。そうだ!葵、裕樹おじちゃんのことも大好きでしょ?裕樹おじちゃんはまだ結婚してないからお嫁さんになれるわよ?どう?裕樹おじちゃんもかっこいいよぉ〜。」「お、おい。いい加減なこと言うなよ!」
慌ててる僕をよそに、少し考えていた葵は
「うん!葵、裕樹おじちゃんのお嫁さんになる!」
とニコニコ僕に抱きついてきてほっぺにkissしてきた。
この状態を拒絶できる鬼みたいな心を持っている人がいたら是非お目にかかってみたい。
「そっか。おじちゃんのお嫁さんになるか?」
僕も葵のほっぺにkissを返した。
きゃっきゃと喜んだ葵は新しい短冊に新しいお願い事を書き始めた。
翌朝僕が少し遅めにキッチンに降りていくとお兄ちゃんが家に帰ってきて朝食を食べていた。
「おはよ。今帰ったの?」
「ああ
。」なんか不機嫌そうだなぁ。こんな日に限って琴子はもう出勤してるのかよぉ?
僕はあまり刺激しないようにそっと朝食を食べ始めた。
と、おませな葵がすかさず僕の隣に自分のイスを持ってきて座った。
「沢山食べてね!」
と、すっかり奥さん気取りだ。女の子の成長ってホント怖い。
「お前、葵と結婚するんだってな」
お兄ちゃんの声と一緒に、新聞をめくる音がいつもより大きく聞こえた。
あっ、不機嫌の原因発見!
「それはその・・・葵は本当はパパと結婚したいんだよね?」
「うん!でもママがダメって!だから裕樹おじちゃんのお嫁さんになるの」
お兄ちゃんの口元が緩んだ。
「今からお見舞い?」
僕が玄関で靴を履いてるとお風呂から上がったお兄ちゃんがバスタオルで頭をふきながら歩いてきた。機嫌はすっかり直ってるようだ。
「うん。午後は暑いから午前中に外に連れ出してやろうと思って」
「毎日ご苦労だな。でも二股かけるヤツに葵はやらないからな」
そういって部屋に戻ろうとしたお兄ちゃんを僕は呼び止めた。
「お兄ちゃん、もし琴子が入院したらお兄ちゃん毎日お見舞いに行く?」
「なんだよ、急に。それに俺の職場は病院だぞ」
「でもほら、休みの日とかもあるし・・・」
「さあ?なってみなきゃわかんないけど・・・きっと葵が行きたがるだろ」
「そっか。そうだね葵にお願いされちゃしょうがないよね。じゃ、行ってきます」
僕は笑い出しそうになるのをこらえて家を出た。
To be continued
創作・裕樹編 -It started with a kiss 16−
2007.05.28
創作・裕樹編 -It started with a kiss 14−
桔梗がいなくなった途端、再び病室に静寂が訪れた。
「いつ来たの?」
「30分くらい前」
静かな病室に僕達の声だけが響いた。
*続きを読む*
「いつ来たの?」
「30分くらい前」
静かな病室に僕達の声だけが響いた。
「無事生還おめでとう。」
僕は好美の腕にできているスリ傷にそっと口づけた。
「痛かっただろ?」
「うん」
細い腕に繋がれた点滴と、巻かれた包帯が痛々しかった。
僕はベッドに上がって背後からそっと好美を抱きしめた。
「好美、何が聞こえる?」
「・・・裕樹君の心臓の音」
「昨日はその音が止まるかと思ったよ。お願いだからもう無茶なことしないでくれよ。」
「うん、驚かせてごめんね。」
僕は好美が生きていることを温もりで実感しながら、おでこや頬にもできている傷にも口づけた。
・・・と、
「好美ちゃん、調子は・・・っ!!」
主治医のお兄ちゃんがノックと同時に入ってきた。
カルテを見ながら入ってきたから僕達の様子に気が付くのに若干の時間がかかったようだ。
若干の時間があったものの、突然のことにすっかり固まってしまっていた僕達はベッドの上でフリーズしたまんま目だけお兄ちゃんに釘付けだった。
「入江裕樹、ちょっといいかな?」
静かにそう言うとお兄ちゃんは病室を出て行った。
ヤバイ・・・ヤバイ!!
僕はソロソロとベッドから降りてお兄ちゃんの待つ部屋の外に出た。
授業中おしゃべりしてて立たされるなんて経験したことないけど、もしかしたらこんな気分なのかもしれない。
廊下では聴診器を首から下げた白衣のお兄ちゃんが壁にもたれかかったまま待っていて、ドアが閉まったのを確認してから口を開いた。
「お前が血気盛んな年頃だってこともスキンシップに飢えてることもよく理解してるつもりだが、2つ言っておく。まず1つ。お前がベッドの上に乗るのはまだ2週間早い。2つ、ドクター回診の前とバイタル前は節制しろ。数値に影響が出る。」
「り、了解。」
今、好美よりも僕の脈拍を計った方が異常値が出るだろう・・・。僕は変な汗をかいていた。
「でもお前知ってるか?」
さっきまで淡々と話していたお兄ちゃんが、うつむいてる僕の顔をのぞき込んでニヤリと笑った。
「な、何を?」
「入院中の病院っていうシチュエーション、非日常的でなかなか刺激的なんだゼ。」
「お兄ちゃんっ!」
「深夜の病院を体験させてやれないのが残念だけど(笑)」
「お兄ちゃん、一体どんな体験したの?」
「秘密さっ」
と笑っていたお兄ちゃんが急に真顔になった。
「?」
お兄ちゃんが一瞬見た方を僕も見てみると・・・。
「あらっ、お兄ちゃんに裕樹じゃない!そんなところで2人揃って何やってるの?」
あーっ、とうとう入江紀子がやって来た!
「俺、まだ外来の診察が残ってるから。おふくろ、好美ちゃん昨日オペしたばっかりだから長居して疲れさすなよ!。じゃぁ、行くよ。」
お兄ちゃんは『一抜けた〜』と言わんばかりに踵を返して行ってしまった。
「好美ちゃん大丈夫?もーっ、昨日は本当にびっくりしちゃったわー!痛いとことはない?困ってることはない?退屈だったでしょ?今日は好美ちゃんの大好きなケーキ焼いてきたのよぉ〜。」
母さんは廊下にいる僕達の事なんてお構いなしに沢山の質問を好美に投げかけながらどんどん病室に入っていってしまった。
僕も慌てて後に続いた。
「裕樹も留学なんて止めちゃってここの医学部に編入しちゃったら?お兄ちゃんと琴子ちゃんの患者とナースのカップルもステキだったじゃない?きっと医者と患者のカップルもロマンチックよぉ〜。」
この人の思考回路はいつにおいても恋愛先行型なんだ。
でも母さんがいつもの調子だっていうのは、実は『僕達家族が安泰だ』ってことで幸せなことなんだ・・・。
「僕が医学部でぐずぐずしてる間に好美は患者なんかじゃなくなるよっ!。それに父さんが聞いたら、隣の部屋が父さんの病室になっちゃうよ!ほらっ、入院してる彼女とそれを見舞う献身的な息子カップルの写真撮りたいんだろ?。満足したら早く帰ってくれよな。それでなくてもこの病院はいろんな人の出入りが多すぎて気が休まらないんだから」
そういいながら好美の背後に回って肩を組んでポーズをとった。好美ももうこんな状況には慣れっこになってるから点滴の着いていない方の手でピースポーズをとったりしていた。
「裕樹ったら、お兄ちゃんより察しがいいからママ助かっちゃうワ!」
すかさずバッグからデジカメを取り出してシャッターを切り始めた。
「帰って印刷しなくっちゃーっ!」そう言いながら母さんはご機嫌で帰って行った。
明日にはこのベッド脇のテーブルに何枚かの写真が追加されることになるだろう。
「やっと静かになったね。しかしこの病院落ち着かないよな〜。これで琴子がいたら更に落ち着かないんだろうなぁ〜。いっそのこと転院する?」
「実は・・・この後お母さんがまた弟と一緒に来る予定なんだけど・・・」
と言い終わらないうちに
「裕樹君のお母さんにそこで会ったわよ〜。来て下さってたのねぇ〜。裕樹君のお家の方には本当にお世話になりっぱなしで」
「お姉ちゃん、車に轢かれるだなんてダセーなぁ〜。裕樹兄ちゃんに愛想つかされるゾ〜。」
好美のお母さんと弟の登場だ。
僕は必死で笑顔を作って、好美はそれを見て笑っていた。
To be continued
創作・裕樹編 -It started with a kiss 15−
僕は好美の腕にできているスリ傷にそっと口づけた。
「痛かっただろ?」
「うん」
細い腕に繋がれた点滴と、巻かれた包帯が痛々しかった。
僕はベッドに上がって背後からそっと好美を抱きしめた。
「好美、何が聞こえる?」
「・・・裕樹君の心臓の音」
「昨日はその音が止まるかと思ったよ。お願いだからもう無茶なことしないでくれよ。」
「うん、驚かせてごめんね。」
僕は好美が生きていることを温もりで実感しながら、おでこや頬にもできている傷にも口づけた。
・・・と、
「好美ちゃん、調子は・・・っ!!」
主治医のお兄ちゃんがノックと同時に入ってきた。
カルテを見ながら入ってきたから僕達の様子に気が付くのに若干の時間がかかったようだ。
若干の時間があったものの、突然のことにすっかり固まってしまっていた僕達はベッドの上でフリーズしたまんま目だけお兄ちゃんに釘付けだった。
「入江裕樹、ちょっといいかな?」
静かにそう言うとお兄ちゃんは病室を出て行った。
ヤバイ・・・ヤバイ!!
僕はソロソロとベッドから降りてお兄ちゃんの待つ部屋の外に出た。
授業中おしゃべりしてて立たされるなんて経験したことないけど、もしかしたらこんな気分なのかもしれない。
廊下では聴診器を首から下げた白衣のお兄ちゃんが壁にもたれかかったまま待っていて、ドアが閉まったのを確認してから口を開いた。
「お前が血気盛んな年頃だってこともスキンシップに飢えてることもよく理解してるつもりだが、2つ言っておく。まず1つ。お前がベッドの上に乗るのはまだ2週間早い。2つ、ドクター回診の前とバイタル前は節制しろ。数値に影響が出る。」
「り、了解。」
今、好美よりも僕の脈拍を計った方が異常値が出るだろう・・・。僕は変な汗をかいていた。
「でもお前知ってるか?」
さっきまで淡々と話していたお兄ちゃんが、うつむいてる僕の顔をのぞき込んでニヤリと笑った。
「な、何を?」
「入院中の病院っていうシチュエーション、非日常的でなかなか刺激的なんだゼ。」
「お兄ちゃんっ!」
「深夜の病院を体験させてやれないのが残念だけど(笑)」
「お兄ちゃん、一体どんな体験したの?」
「秘密さっ」
と笑っていたお兄ちゃんが急に真顔になった。
「?」
お兄ちゃんが一瞬見た方を僕も見てみると・・・。
「あらっ、お兄ちゃんに裕樹じゃない!そんなところで2人揃って何やってるの?」
あーっ、とうとう入江紀子がやって来た!
「俺、まだ外来の診察が残ってるから。おふくろ、好美ちゃん昨日オペしたばっかりだから長居して疲れさすなよ!。じゃぁ、行くよ。」
お兄ちゃんは『一抜けた〜』と言わんばかりに踵を返して行ってしまった。
「好美ちゃん大丈夫?もーっ、昨日は本当にびっくりしちゃったわー!痛いとことはない?困ってることはない?退屈だったでしょ?今日は好美ちゃんの大好きなケーキ焼いてきたのよぉ〜。」
母さんは廊下にいる僕達の事なんてお構いなしに沢山の質問を好美に投げかけながらどんどん病室に入っていってしまった。
僕も慌てて後に続いた。
「裕樹も留学なんて止めちゃってここの医学部に編入しちゃったら?お兄ちゃんと琴子ちゃんの患者とナースのカップルもステキだったじゃない?きっと医者と患者のカップルもロマンチックよぉ〜。」
この人の思考回路はいつにおいても恋愛先行型なんだ。
でも母さんがいつもの調子だっていうのは、実は『僕達家族が安泰だ』ってことで幸せなことなんだ・・・。
「僕が医学部でぐずぐずしてる間に好美は患者なんかじゃなくなるよっ!。それに父さんが聞いたら、隣の部屋が父さんの病室になっちゃうよ!ほらっ、入院してる彼女とそれを見舞う献身的な息子カップルの写真撮りたいんだろ?。満足したら早く帰ってくれよな。それでなくてもこの病院はいろんな人の出入りが多すぎて気が休まらないんだから」
そういいながら好美の背後に回って肩を組んでポーズをとった。好美ももうこんな状況には慣れっこになってるから点滴の着いていない方の手でピースポーズをとったりしていた。
「裕樹ったら、お兄ちゃんより察しがいいからママ助かっちゃうワ!」
すかさずバッグからデジカメを取り出してシャッターを切り始めた。
「帰って印刷しなくっちゃーっ!」そう言いながら母さんはご機嫌で帰って行った。
明日にはこのベッド脇のテーブルに何枚かの写真が追加されることになるだろう。
「やっと静かになったね。しかしこの病院落ち着かないよな〜。これで琴子がいたら更に落ち着かないんだろうなぁ〜。いっそのこと転院する?」
「実は・・・この後お母さんがまた弟と一緒に来る予定なんだけど・・・」
と言い終わらないうちに
「裕樹君のお母さんにそこで会ったわよ〜。来て下さってたのねぇ〜。裕樹君のお家の方には本当にお世話になりっぱなしで」
「お姉ちゃん、車に轢かれるだなんてダセーなぁ〜。裕樹兄ちゃんに愛想つかされるゾ〜。」
好美のお母さんと弟の登場だ。
僕は必死で笑顔を作って、好美はそれを見て笑っていた。
To be continued
創作・裕樹編 -It started with a kiss 15−
2007.05.27
創作・裕樹編 -It started with a kiss 13−
翌日病室に行くと、好美は眠っていた。
あまり長居をしても疲れさせると思ったから、葵に昼食を食べさせてしばらく一緒に遊んだ後お昼寝させてからでてきたんだ。
琴子が好美の世話をしてくれる分、僕も葵の世話に協力しないとね。
眠っている好美を暫くおとなしく見ていたものの、あまりに静かに眠ってるので本当に息をしているの手を鼻に近づけてみた。
温かい空気が僕の手に感じられた。
僕はよく眠ってる好美を起こさないよう、椅子に腰掛けて本を開いた。
ベッドの脇のテーブルにはもう僕達の写真が飾られてあった。
*続きを読む*
あまり長居をしても疲れさせると思ったから、葵に昼食を食べさせてしばらく一緒に遊んだ後お昼寝させてからでてきたんだ。
琴子が好美の世話をしてくれる分、僕も葵の世話に協力しないとね。
眠っている好美を暫くおとなしく見ていたものの、あまりに静かに眠ってるので本当に息をしているの手を鼻に近づけてみた。
温かい空気が僕の手に感じられた。
僕はよく眠ってる好美を起こさないよう、椅子に腰掛けて本を開いた。
ベッドの脇のテーブルにはもう僕達の写真が飾られてあった。
「佐川さん、お熱計らせて下さいね〜」
それまでの静寂を破って、ノックと同時に声が聞こえてドアが開いた。
僕が振り返ると
「あら〜、入江先生んちの裕樹くんじゃないのぉ〜」
とその声が更に1オクターブ上がった。
琴子と仲良しのおかまの桔梗だ!
桔梗のデカイ声で好美は目が覚めたようだ。そして僕がいることに驚いた顔をしたもののうれしそうな笑顔をみせてくれた。
「佐川さん血圧計りましょーねっ。裕樹君ったらちょっと見ないうちにいい男になっちゃったわねぇ〜。ますます入江先生に似てきちゃって!今留学してるって言うじゃないっ。やっぱり入江家のDNAは容姿も頭も優秀なのね〜。」
口が動きまくってる割にはテキパキと血圧計ったり脈拍とったりちゃんと仕事をしてるようだ。
「もうこんな可愛い彼女までいるんだもんね。昔はこーんなに小さくて小ブタちゃんだったのにすっかりスラーっとしちゃって。蜂に刺されて大騒ぎしたの覚えてる?。智子に手当してもらって舞い上がってたっけ。昔からカワイ子ちゃん好きだったのね。」
「
!!」
桔梗のヤツ調子に乗ってベラベラと・・・
!
「あらっ、怖い!でも、ニラんだ目つきまで入江先生に似てきたワ!琴子のガードが堅い入江先生ファンクラブから裕樹君ファンクラブに乗り換えようかしらぁ〜。」
全然悪びれた様子もなく桔梗は続けた。
「でもねー、入江先生は琴子のガードが堅いだけなんだけど、裕樹君と佐川さんに関しては琴子と入江先生にWブロックされちゃうのよねぇ〜。」
「Wブロック?」
「そーなのよっ。私が今佐川さんのお世話してるのも琴子からの依頼なのよ。『私がいない間のお世話はモトちゃんに託すわ!きめ細かいお世話よろしくね!』ってあんなに念おされちゃぁねぇ〜。他のナースだと裕樹君に惚れちゃうと思ってるのよね。唯一男なの私だけだし。でも私だって裕樹君を好きになる権利あると思うんだけど(笑)。」
「僕は男が好美の世話する方がイヤだけど?」
「まっ、やっと会話が成立したかと思ったら・・・ヤキモチなんか妬いちゃってかわいい〜!大丈夫よっ。いくら佐川さんが可愛くても、私女には全然興味ないもの!」
カルテに数値を書き込み終わった桔梗は出て行くどころかドッカと椅子に腰を下ろした。
「昨日の入江先生も凄かったワ〜。本当は西垣先生が執刀するはずだったんだけど、『どうしても俺が助けないといけない患者なんです!』って言い張ってねぇ〜。誰も口出せないくらいの迫力だったわよ。格好良かったわぁ〜。今朝だってナースステーションにやってきて私に『佐川さんはうちの家族みたいなものだから一応「世話になります」って担当ナースには言っておかないとな。毎日弟も来ると思うけど、特別扱いとよこしまな考えは不要だからな』だって!。初めて入江先生に頭下げらちゃって恐縮しちゃったわよっ」
お兄ちゃん、全然そんな素振り見せなかったのに・・・。あっ、僕も、いくら相手が桔梗でも「お世話になります」って頭下げとかなきゃいけないんだった!
「き、桔梗さん。」
今更どんな顔して頭下げていいのかわからなかったけど、一応やるべきことはやっておかないと!
「何よ?急にかしこまっちゃって」
「好美のことよろしくお願いします」
お願いの割にはぶっきらぼうすぎたかな?
「あらかわいーっ!!今キュンとしちゃったワ!このそっけなさが入江兄弟の魅力よねぇ〜。そっけないくせに意中の人には意外とやさしかったりするのよねぇ〜。その落差が堪らないわよね。佐川さんもそう思わない?あっ、佐川さんだなんてなんだか他人行儀ね。今日から私も好美ちゃんって呼ぶわね!」
「あっ、は、ハイ」
ったく、好美が戸惑ってるじゃないか!
「桔梗さん、うちの熱血ナースが言ってませんでしたか?僕が来てる時はきめ細かいお世話は不要だって。」
「聞いてないわよ」
この鈍感なヤツめっ
!
「そんな顔しなくてももう行くわよ。これからしばらく顔合わせることになりそうだけど、これからもよろしくね。好美ちゃん、何でも困ったことがあったら私に言ってちょうだい。安心して、情熱は琴子に負けてるかもしれないけど針使いは数段上よ。それに着替えの手伝いもねっ」
「!桔梗っ
!」
「怒るとますますカワイイ〜っ!」
そう言いながら桔梗は病室を出て行った。
フーっ、なんだか一気に疲れた・・・。
僕は椅子に座って上半身だけ好美のベッドに打っ伏せた。
「裕樹君?」
好美の声と僕の髪を撫でる心地よい感触が僕に伝わった。
僕はその温かい手を掴んで身体を起こした。
To be continued
創作・裕樹編 -It started with a kiss 14−
それまでの静寂を破って、ノックと同時に声が聞こえてドアが開いた。
僕が振り返ると
「あら〜、入江先生んちの裕樹くんじゃないのぉ〜」
とその声が更に1オクターブ上がった。
琴子と仲良しのおかまの桔梗だ!
桔梗のデカイ声で好美は目が覚めたようだ。そして僕がいることに驚いた顔をしたもののうれしそうな笑顔をみせてくれた。
「佐川さん血圧計りましょーねっ。裕樹君ったらちょっと見ないうちにいい男になっちゃったわねぇ〜。ますます入江先生に似てきちゃって!今留学してるって言うじゃないっ。やっぱり入江家のDNAは容姿も頭も優秀なのね〜。」
口が動きまくってる割にはテキパキと血圧計ったり脈拍とったりちゃんと仕事をしてるようだ。
「もうこんな可愛い彼女までいるんだもんね。昔はこーんなに小さくて小ブタちゃんだったのにすっかりスラーっとしちゃって。蜂に刺されて大騒ぎしたの覚えてる?。智子に手当してもらって舞い上がってたっけ。昔からカワイ子ちゃん好きだったのね。」
「
!!」桔梗のヤツ調子に乗ってベラベラと・・・
!「あらっ、怖い!でも、ニラんだ目つきまで入江先生に似てきたワ!琴子のガードが堅い入江先生ファンクラブから裕樹君ファンクラブに乗り換えようかしらぁ〜。」
全然悪びれた様子もなく桔梗は続けた。
「でもねー、入江先生は琴子のガードが堅いだけなんだけど、裕樹君と佐川さんに関しては琴子と入江先生にWブロックされちゃうのよねぇ〜。」
「Wブロック?」
「そーなのよっ。私が今佐川さんのお世話してるのも琴子からの依頼なのよ。『私がいない間のお世話はモトちゃんに託すわ!きめ細かいお世話よろしくね!』ってあんなに念おされちゃぁねぇ〜。他のナースだと裕樹君に惚れちゃうと思ってるのよね。唯一男なの私だけだし。でも私だって裕樹君を好きになる権利あると思うんだけど(笑)。」
「僕は男が好美の世話する方がイヤだけど?」
「まっ、やっと会話が成立したかと思ったら・・・ヤキモチなんか妬いちゃってかわいい〜!大丈夫よっ。いくら佐川さんが可愛くても、私女には全然興味ないもの!」
カルテに数値を書き込み終わった桔梗は出て行くどころかドッカと椅子に腰を下ろした。
「昨日の入江先生も凄かったワ〜。本当は西垣先生が執刀するはずだったんだけど、『どうしても俺が助けないといけない患者なんです!』って言い張ってねぇ〜。誰も口出せないくらいの迫力だったわよ。格好良かったわぁ〜。今朝だってナースステーションにやってきて私に『佐川さんはうちの家族みたいなものだから一応「世話になります」って担当ナースには言っておかないとな。毎日弟も来ると思うけど、特別扱いとよこしまな考えは不要だからな』だって!。初めて入江先生に頭下げらちゃって恐縮しちゃったわよっ」
お兄ちゃん、全然そんな素振り見せなかったのに・・・。あっ、僕も、いくら相手が桔梗でも「お世話になります」って頭下げとかなきゃいけないんだった!
「き、桔梗さん。」
今更どんな顔して頭下げていいのかわからなかったけど、一応やるべきことはやっておかないと!
「何よ?急にかしこまっちゃって」
「好美のことよろしくお願いします」
お願いの割にはぶっきらぼうすぎたかな?
「あらかわいーっ!!今キュンとしちゃったワ!このそっけなさが入江兄弟の魅力よねぇ〜。そっけないくせに意中の人には意外とやさしかったりするのよねぇ〜。その落差が堪らないわよね。佐川さんもそう思わない?あっ、佐川さんだなんてなんだか他人行儀ね。今日から私も好美ちゃんって呼ぶわね!」
「あっ、は、ハイ」
ったく、好美が戸惑ってるじゃないか!
「桔梗さん、うちの熱血ナースが言ってませんでしたか?僕が来てる時はきめ細かいお世話は不要だって。」
「聞いてないわよ」
この鈍感なヤツめっ
!「そんな顔しなくてももう行くわよ。これからしばらく顔合わせることになりそうだけど、これからもよろしくね。好美ちゃん、何でも困ったことがあったら私に言ってちょうだい。安心して、情熱は琴子に負けてるかもしれないけど針使いは数段上よ。それに着替えの手伝いもねっ」
「!桔梗っ
!」「怒るとますますカワイイ〜っ!」
そう言いながら桔梗は病室を出て行った。
フーっ、なんだか一気に疲れた・・・。
僕は椅子に座って上半身だけ好美のベッドに打っ伏せた。
「裕樹君?」
好美の声と僕の髪を撫でる心地よい感触が僕に伝わった。
僕はその温かい手を掴んで身体を起こした。
To be continued
創作・裕樹編 -It started with a kiss 14−
2007.05.22
創作・裕樹編 -It started with a kiss 12−
食事が終わって、お兄ちゃんにまとわりついてはしゃいでいた葵もようやく眠りについた。
家で好美のことを心配していた母さんも、お兄ちゃんからの報告で一安心したようだった。
葵を寝かしつけ終わったお兄ちゃんと僕は自分達の部屋じゃなくリビングにいた。
家の外だと兄弟らしい会話をする僕達だけど、家に2人っきりだとこれといって話すこともなく、それぞれが思い思いのことをして過ごしていた。
*続きを読む*
家で好美のことを心配していた母さんも、お兄ちゃんからの報告で一安心したようだった。
葵を寝かしつけ終わったお兄ちゃんと僕は自分達の部屋じゃなくリビングにいた。
家の外だと兄弟らしい会話をする僕達だけど、家に2人っきりだとこれといって話すこともなく、それぞれが思い思いのことをして過ごしていた。
11時も過ぎてまだリビングでチビをかまっていると、お兄ちゃんの携帯が鳴った。
「うん、そうか。うん、血圧は?痛みは?うん、うん・・・わかった。もう大丈夫だからお前ちゃんと仮眠とれよ。葵?もう寝てるよ。うん、大丈夫・・・。」
お兄ちゃんの相づちに僕は聞き耳を立てていた。電話の相手とその内容が想像できたから。それ以前に、この電話がきっとかかってくると思っていたから。
「ああ、代わるよ。」
予想していたもののお兄ちゃんのその言葉に僕はビクッと反応した。
「裕樹、好美ちゃん麻酔覚めたって。彼女疲れるといけないから少しだけだぞ。」
「う、うん。」
僕はドキドキしながら携帯を受け取った。
「もしもし?」
「裕樹君?」
好美の声だ!
「やっと起きたか、このねぼすけ。身体痛くないか?」
「うん。薬入れてくれてるから大丈夫。今日はゴメンネ。」
「明日話そう。今日はこのままゆっくり眠れよ。何かあったらすぐそこのナイチンゲールに言うんだぞ!」
「ナイチンゲール?あっ、琴子先生のこと(笑)?」
「うん。うるさいけど頼りになるナイチンゲールがいるから寂しくないだろ?」
「うん。」
「何か持ってきて欲しいものとかある?」
「ううん。ない。」
「なんだよっ、裕樹君の写真が欲しいワーとか言えばかわいいのに」
「本人が来てくれた方が嬉しいもん」
(かっ、かわいい
・・・)
「へへへ、そっか。じゃあまた明日。おやすみ。」
「何ニヤケてんだよ。」
お兄ちゃんの声でハッと我に返った。携帯を握りしめたまま僕はニヤニヤしていたらしい。
「さっ、俺はもう寝るぞ。」
お兄ちゃんは僕の手から携帯を受け取って、開いていた医学書を閉じて立ち上がった。
「お兄ちゃん、僕、琴子に言葉にできないくらい感謝してるんだけど言葉に出来ないからきっと本人に上手く伝えられないよ。どうすればいい?HUGとかで表現していい?」
すがるような気持ちでお兄ちゃんにたずねた。琴子を喜ばすことが世界一上手なお兄ちゃんなら、なにか良い案があるかと思ったんだ。
「もう伝わってるよ」
「えっ?」
「今頃『頼りになるナイチンゲール』ってとこだけが一人歩きしてあいつ好美ちゃんの横で舞い上がってるよ。それに・・・」
ソファーの背もたれに腰掛けてお兄ちゃんは続けた。
「あいつ4年前の俺の入院の時におまえと同じ心境に陥ったからな。きっと誰よりもお前の気持ちわかってるよ。だからいてもたってもいられなかったんだろ。本当はあいつがやりたくてやってる事なんだ。」
「琴子のヤツ・・・」
せっかく琴子の行動にジーンときてたのに・・・。分厚い医学書の角が僕の頭にコツン
と降ってきた。
「お前今、ますます琴子のことHUGしたいと思っただろ。」
「えっ?」−図星
だ−
「あいつが時々勢い余ってお前に飛びつくのは許すけど、お前からHUGするのは禁止だ。交換条件として俺も好美ちゃんに自分からHUGしたりしない。わかったらもう寝ろ。おやすみ!」
特に表情も変えずにそれだけ言うとスタスタと階段を昇っていってしまった。
(HUGは阻止されたから・・・リポDの差し入れでいいかっ!!。)
1人取り残された僕は久しぶりにチビに話しかけていた。
「斗南大病院のブラック・ジャックはナイチンゲールのこととなると実の弟まで脅すんだゼ・・・。あっ!!感謝の気持ちをこめてこのことを琴子に話してあげようかなぁ?」
するとチビがダメダメというかのように首を左右に振った。
「わかった、わかった!。舞い上がってまた妄想の世界に行っちゃって好美の看護に影響でるといけないもんな。やっぱり差し入れでいいや」
こうして人生の中で一番気を揉んだ一日は、わりと平和に終わっていった。
To be continued
創作・裕樹編 -It started with a kiss 13−
「うん、そうか。うん、血圧は?痛みは?うん、うん・・・わかった。もう大丈夫だからお前ちゃんと仮眠とれよ。葵?もう寝てるよ。うん、大丈夫・・・。」
お兄ちゃんの相づちに僕は聞き耳を立てていた。電話の相手とその内容が想像できたから。それ以前に、この電話がきっとかかってくると思っていたから。
「ああ、代わるよ。」
予想していたもののお兄ちゃんのその言葉に僕はビクッと反応した。
「裕樹、好美ちゃん麻酔覚めたって。彼女疲れるといけないから少しだけだぞ。」
「う、うん。」
僕はドキドキしながら携帯を受け取った。
「もしもし?」
「裕樹君?」
好美の声だ!
「やっと起きたか、このねぼすけ。身体痛くないか?」
「うん。薬入れてくれてるから大丈夫。今日はゴメンネ。」
「明日話そう。今日はこのままゆっくり眠れよ。何かあったらすぐそこのナイチンゲールに言うんだぞ!」
「ナイチンゲール?あっ、琴子先生のこと(笑)?」
「うん。うるさいけど頼りになるナイチンゲールがいるから寂しくないだろ?」
「うん。」
「何か持ってきて欲しいものとかある?」
「ううん。ない。」
「なんだよっ、裕樹君の写真が欲しいワーとか言えばかわいいのに」
「本人が来てくれた方が嬉しいもん」
(かっ、かわいい
・・・)「へへへ、そっか。じゃあまた明日。おやすみ。」
「何ニヤケてんだよ。」
お兄ちゃんの声でハッと我に返った。携帯を握りしめたまま僕はニヤニヤしていたらしい。
「さっ、俺はもう寝るぞ。」
お兄ちゃんは僕の手から携帯を受け取って、開いていた医学書を閉じて立ち上がった。
「お兄ちゃん、僕、琴子に言葉にできないくらい感謝してるんだけど言葉に出来ないからきっと本人に上手く伝えられないよ。どうすればいい?HUGとかで表現していい?」
すがるような気持ちでお兄ちゃんにたずねた。琴子を喜ばすことが世界一上手なお兄ちゃんなら、なにか良い案があるかと思ったんだ。
「もう伝わってるよ」
「えっ?」
「今頃『頼りになるナイチンゲール』ってとこだけが一人歩きしてあいつ好美ちゃんの横で舞い上がってるよ。それに・・・」
ソファーの背もたれに腰掛けてお兄ちゃんは続けた。
「あいつ4年前の俺の入院の時におまえと同じ心境に陥ったからな。きっと誰よりもお前の気持ちわかってるよ。だからいてもたってもいられなかったんだろ。本当はあいつがやりたくてやってる事なんだ。」
「琴子のヤツ・・・」
せっかく琴子の行動にジーンときてたのに・・・。分厚い医学書の角が僕の頭にコツン
と降ってきた。「お前今、ますます琴子のことHUGしたいと思っただろ。」
「えっ?」−図星
だ−「あいつが時々勢い余ってお前に飛びつくのは許すけど、お前からHUGするのは禁止だ。交換条件として俺も好美ちゃんに自分からHUGしたりしない。わかったらもう寝ろ。おやすみ!」
特に表情も変えずにそれだけ言うとスタスタと階段を昇っていってしまった。
(HUGは阻止されたから・・・リポDの差し入れでいいかっ!!。)
1人取り残された僕は久しぶりにチビに話しかけていた。
「斗南大病院のブラック・ジャックはナイチンゲールのこととなると実の弟まで脅すんだゼ・・・。あっ!!感謝の気持ちをこめてこのことを琴子に話してあげようかなぁ?」
するとチビがダメダメというかのように首を左右に振った。
「わかった、わかった!。舞い上がってまた妄想の世界に行っちゃって好美の看護に影響でるといけないもんな。やっぱり差し入れでいいや」
こうして人生の中で一番気を揉んだ一日は、わりと平和に終わっていった。
To be continued
創作・裕樹編 -It started with a kiss 13− 